2020年夏、ずっと楽しみにしていた修学旅行が新型コロナウイルスの影響で中止に。予想はしていたけれど、果てしない悲しさとやるせなさとでいっぱいになりました。「このままでは嫌だ」。悔しさを原動力に、私は仲間の高校生8人と「オンライン修学旅行」を立ち上げました。(高校生記者・小泉花音=3年)
修学旅行が中止に…オンラインでできないか?
修学旅行ならではの楽しさと、充実した学びの両立を目指したオンラインプログラムです。
20年11月に「オンライン長崎修学旅行」、今年3月には「オンライン静岡修学旅行」を開催し、合わせて100人以上の中高生の参加がありました。
もともと私たちは、「高校生1万人署名活動」という活動に参加していました。2001年に長崎県の高校生によって始められた、核兵器の廃絶を目指す署名活動です。
集めた署名は「高校生平和大使」の手によって、毎年夏に国際連合に提出。その数は200万筆以上にもなります。
ですが、新型コロナウイルスの感染拡大で、街頭での署名活動は自粛になりました。何か代わりにできる活動はないか悩んでいたちょうどそのときに、修学旅行の中止が決定されたのです。
メンバーの中には、広島や長崎など被爆地への修学旅行をきっかけに核問題に興味を持ったという人も多くいました。オンラインで修学旅行を開催することで、全国の中高生から奪われてしまった大切な思い出と、貴重な平和学習のチャンスを取り戻すことができるのではないかと考えたのです。
準備で大忙し、不思議と充実感
さて、具体的な企画の案出しまでは比較的スムーズに進んだのですが、大変だったのはここから。ウェブサイトの立ち上げ、ポスターやチラシのデザインと発送、各種メディアへの広報依頼交渉、出演者との段取り調整、動画の撮影や編集……やらなければならないことが次から次へと押し寄せてくる状態でした。
連日、オンラインでメンバーとミーティングを重ね、協力して準備を進めていきました。大変だと感じたことはあれども、不思議とつらくはなくて、新しい学びの連続の毎日に充実感を感じていたのを覚えています。
開催の1カ月前には、被爆者による講話の動画と「平和をテーマにした本」を紹介するビブリオバトルの動画を「事前学習」コンテンツとしてYouTubeに掲載しました。
Zoomで長崎へ、被爆者の講話や名所をツアー
発案から約4カ月後、いよいよ「オンライン長崎修学旅行」開催の当日。使用したのはオンライン会議ツール「Zoom」です。
1日目は、長崎に住んでいる被爆者にZoomで講話をしていただきました。参加者が積極的に質問をしている様子が印象的でした。
2日目は、長崎県の高校生に撮影してもらった映像を編集した解説付きツアー動画を放映し、グラバー園・軍艦島・教会群・平和公園などの各観光スポットを巡りました。
ZOOMのコメント欄で感想を言い合えるようにしたところ、長崎の参加者から豆知識が送られるなど、まるで映画の応援上映のような雰囲気で盛り上がりました。
3日目は、長崎大学核廃絶研究センターの広瀬訓教授の特別講義を受けました。核兵器をめぐる情勢の解説。さらに、3日間を通して、長崎県の特産品などを長崎県出身の運営メンバーが紹介するショートビデオをコンテンツの合間に流しました。
寸劇を交えた「長崎方言クイズ」のときには、参加者がおなかを抱えて笑っている様子が見えて、楽しんでもらえているのが実感できてうれしかったのを覚えています。
修学旅行の夜の「あの」空気感を再現すべく、参加者の皆でUNOや人狼ゲームで遊ぶ任意参加セッションも開催しました。大いに盛り上がり、最初は少し緊張していた様子の参加者たちも、セッション終了後にはタメ口で笑い合うぐらい仲良くなっていました。
核問題を考えるきっかけに
トラブルが発生しハラハラしたときもありましたが、プログラムの最後に開催したディスカッションセッションでの参加者からの「参加して良かった」という言葉は本当にうれしかったし、頑張ってきてよかったと思えました。
好評を受け、翌年3月には、あまたの観光スポットや、世界の原水爆禁止運動の原点になったと言われる被爆漁船「第五福竜丸」に関連する施設のある静岡県にスポットライトを当てた「第2弾・オンライン修学旅行」も開催しました。
今後も広島・沖縄を始めとした他の都道府県、さらには海外を行き先にした「オンライン修学旅行」を実現していきたいと思っています。
核問題は、環境問題や貧困問題などの他の国際問題に比べて知名度がやや劣るのが現状だと思います。2021年3月には核兵器禁止条約が発効されて世界的に大きな話題になりましたが、日本を含め、加盟していない国は多くあります。
「オンライン修学旅行」が、中高生の皆さんにとって「楽しい思い出」となったと同時に、核問題について考えるきっかけになったとすればうれしいな、と思っています。