人名、年号、事件……暗記科目のイメージが強い、日本史や世界史などの歴史科目が苦手な高校生もいるだろう。歴史学者の羽田正先生(東京大学名誉教授)に、楽しく歴史を学ぶコツや、今後の時代を生きくのに役立つ勉強法を聞いた。(中田宗孝)

歴史は暗記科目じゃない

―「人名、地名、事件……とにかく暗記することが多い歴史は苦手」と考える高校生へ、苦手意識を克服するためのアドバイスをお願いします。

歴史的大事件や、多くの偉人の名前をただ覚えて頭に入れるだけだと、ちっとも面白くない。歴史が暗記モノの科目であるなら、私も嫌いになっていたでしょう(苦笑)

まずは歴史を「物語(ストーリー)」として捉えてみてください。私自身、歴史が面白いと感じたきっかけは、時代小説や戦国武将の伝記、「平家物語」といった歴史の物語を読むのが好きだったからなんです。自分の琴線に触れる「歴史の物語」に出会ったとき、その時代の歴史をもっと知りたくなりました。

歴史を物語としてとらえよう

ハマれる物語を見つけて

―歴史を好きになるのは、まず何からやればよいですか。

歴史が苦手なみなさんには、ある時代や歴史上の人物に焦点を絞った「物語」を読むことをお勧めします。例えば「新選組」に関する本などです。

歴史の物語を読んでいくと、作中に人名、地名、事件が多数登場します。これまで覚えるのが苦手だった人名や地名がストーリーに組み込まれていると、ただ暗記するよりも頭に入ってくるんですね。

新選組、五稜郭……ただ暗記するのではなく、ストーリーとして学んでみて

そして、自分が読んで知った歴史ストーリーを、歴史の教科書の同じ時代と照らし合わせてみると、教科書のあちこちにストーリーと関連した出来事が書かれていることに気がつきます。この「ハマっていく感覚」が楽しいんです。歴史の授業中でも、ストーリーで読んだ出来事が出てくると「このことか!」となり、面白さを感じられると思います。

―物語にハマれば、楽しく理解できそうです。

ですが、一つ注意点があります。過去の歴史を題材にした物語の中は、著者独特の歴史観で書かれている作品もあります。

ですので、物語内の出来事が「歴史的に事実かどうか」は、読者のみなさんが確認する必要があるでしょう。

これからは「横の世界史」、国のつながりを重視

―2022年度には高校の新必修科目「歴史総合」が導入されるなど、歴史教育も改革が進んでいます。今後、高校生はどのように歴史を学ぶとよいですか。

今の高校生たちは、グローバルな視点を持って歴史を学んでいくことが必要です。

日本の歴史、日本以外の世界の歴史……と別々に考えるのではなく、自分たちが暮らす「世界」を知るために歴史を学ぶんだという意識を持って勉強に励んでください。

「自分たちが生きている場所は世界なんだ」と思って視野を広く持ち、世界各地の過去をまとめて一つの歴史と考えるべきだと思うのです。

 

 

―どうすれば広い視野がもてますか。

これまでの歴史の授業が、日本や米国などの各国の歴史を国単位で学ぶ「縦の世界史」だとしましょう。これからは、世界の国々・各地域同士の「つながり」に注目する「横の世界史」を重視することが求められていくと思います。

例えば、オスマン帝国がウィーンを攻めていたのは、織田信長や豊臣秀吉が生きていた時代、ポルトガル人が日本にやってきた頃の出来事。このように考えるのが横の世界史です。世界の歴史を横から眺めて、その時代の特徴を明らかにしていく。それがこれからの歴史の学び方になっていきます。

漫画で歴史を「物語」として学ぶ

―羽田先生が監修した漫画「世界の歴史」シリーズをどのように活用してほしいですか。

この本の歴史物語の中には、歴史的事件や偉人たちと同じ時代を生きていた架空の一般人キャラクターたちが多数でてきます。インド洋を航海する少年船乗り、第一次世界大戦の中を生きる兄弟、そして1980年代に日本の高校生だった少女がやがて母になるまでの成長期も描かれています。

自分たちの身近にいるような人々の物語とあわせて、歴史をたどることができる構成がとても気に入ってます。

読者の皆さんにも「世界の歴史」を、物語として読みながら学んでほしいですね。

―身近に感じられると、親しみを持って学べそうですね。

2022年度から始まる高校の新必修科目「歴史総合」では、18世紀からの近現代史を今までの歴史の授業よりも詳しく学びます。

それにあわせて、全20巻の「世界の歴史」シリーズの5割以上は近現代史の物語が占めているのも特色です。近現代の日本の歴史を振り返ってみても、朝鮮半島を植民地化したり、第二次世界大戦で原爆を落とされたり……暗い話題が多く、純粋に歴史が楽しいと感じられない時代なのかも知れません。

ですが、それが過去の人々の選択の結果です。その選んだ道を顧みて、今後の未来をどうしていけばよいのか、高校生のみなさんに考えていってほしいと思っています。

 

はねだ・まさし

1953年生まれ。東京大学名誉教授。専門は世界史。現在は東京大学東京カレッジ長を務める。最新著書『グローバル化と世界史』(東京大学出版会)、「<イスラーム世界>とは何か「新しい世界史」を描く」(講談社学術文庫)。(写真・島本絵梨佳)

『角川まんが学習シリーズ「世界の歴史」』

羽田正監修(KADOKAWA、全20巻。各巻950円=税抜、全20巻セット1万9000円=税抜)
歴史学習まんがの決定版。2022年度に導入される高校の新必修科目「歴史総合」を見すえ、近現代史のボリュームが全巻の5割以上占めるのも特色。第20巻では、世界で感染が拡大した新型コロナウイルスの話題を収録。