現代文って将来何の役に立つんだろう、スマホで情報を得られるけれどあえて本を読む意味ってあるの? そんな高校生からの疑問に、小説家で高校の国語科教員の瀬川雅峰さんが答えました。(高槻官汰)

現代文を学ぶとデートで役立つ

―高校生の中には「現代文を勉強しても将来役に立たないのでは」と考えている人もいると思います。現代文の学びはどんな場面で役に立つものなのでしょうか。

純粋に「定期テストの点数がほしい」という気持ちで現代文と向き合っていると「将来役に立つかどうか」が分かりにくくなると思います。

現代文の学びは、皆さん一人一人の心や人柄と深くつながってきます。「本を読むのが好きだなぁ」「人と話すのが面白いなぁ」などと感じながら、楽しく現代文と向き合ってもらえたらと思います。

楽しく現代文と向き合って

そうすれば、今の世の中で大事にされている「思考力」「コミュニケーション力」「計画を立てる力」「論理性」の全てが向上すると自信を持って言えます。

例えば「デートで恋人と楽しく話す力」も現代文を学ぶことで磨かれます。国語の教員としては、将来役に立つこと間違いなしの科目なので、心配しないでほしいですね。

―現代文の学びは、他の教科の学習にも活きてくるのでしょうか。

その通りです。実際に現代文で評論を学び、文章中の論理展開が読めるようになれば、それは英語の長文読解にも応用できます――というより、言われなくても無意識に応用し始めているはずですよ。

数学や理科であっても、問題の趣旨を素早く正確に理解できることは大切です。現代文の学びはさまざまな教科に活きています。

まずは漫画でも映画でも良い

―教科書に載っている日本文学。少し語彙(ごい)や表現が難しく、とっつきにくい高校生も多いと思います。そんな高校生に向けて教科書に載っている日本文学を楽しむ方法を教えてください。

「辰巳センセイ」(編集部注:瀬川さんの小説)で文学好きになってください、と言ってしまいたくなりますが……まずはどんな方法でも良いので文学に親しみを持ってもらえたらと思います。

例えば、作品のあらすじを見ること、映画版・漫画版に触れること、最近では文豪や文学をモチーフにしたエンタメ作品もたくさんあります。どれもが文学に親しむきっかけになるでしょう。その上で最終的には自分から「作品そのものを読んでみよう」という気持ちになれれば最高ですね。

どんな方法を採ったとしても、最終的に「文学って、深くて面白いな」と思えたら、勉強も楽しくなると思います。

読書でしか得られないものがある

―近年「活字離れ」という言葉を耳にするようになりました。本を読む意義はどのような所にあると思われますか。

よく生徒に「なんで、先生が『本を読め』って言うか分かる?」と問いかけると「知識が増えるからですか?」と答えてくれます。でも、それは読書の理由の一部に過ぎないと思います。

本を読む意義は?

知識だけに注目すれば、一番物知りなのはスマートフォンです。ですが、いくら断片的な知識を持っていても、それではただの「物知り」のままです。

―読書がもたらすものとは。

自分で考えて「僕はこれを大切にしていきたい」とか「これが私の生きがいだ」などと、自分自身をよく理解することが良く生きる上で大切ですよね。

その際に必要なのは、知識だけでなく、哲学や他者の価値観などに触れることです。そうしないと自分自身の価値観はなかなか形成できません。

自分自身をよく理解している人になるには、先生や先輩から話を聞くことが有効ですが、長時間拘束して話を聞くのは無理があります。その代わりとなり得るものが「本」です。

現役高校教員で小説家の瀬川さん

本を一冊読むと、書いている人の価値観や考え方に触れることができます。自分自身の生き方を考える材料となるのが本なのです。本のような、最初から最後まで誰かが責任を持って、その人の価値観を基に作り上げている創作物は他にありません。

私は映画も漫画もゲームも全て大好きなのですが、本からしか得られないものがあると思っています。

 

辰巳センセイの文学教室

(上下巻、各税込792円、宝島社文庫)

高校の国語科教員である辰巳祐司と円城咲耶をはじめとする登場人物が繰り広げる人間ドラマを描く。時に恋愛模様あり、時に涙あり。高校で起こるさまざまな事件を「日本文学を読むこと」で解決していくミステリー小説。辰巳センセイの授業を受けることで事件解決へのヒントが見える、読めば日本文学に詳しくなれる話題作。