ピアニストの道を進む高校生はどんな毎日を送っているのだろうか。高校生ピアニストの田中咲穂さん(東京・桐朋女子高校音楽科2年)にインタビュー。何かを得るには、地道な練習をひたすら繰り返さないといけない。そんな「大事だけどなかなかできない」ことに向き合う姿があった。(文・写真 中田宗孝)
体格生かしたダイナミックな演奏
クラシック音楽を追求するピアニストの田中さんは、自らの持ち味を「ダイナミックな演奏」と話す。173センチの長身から奏でられる音色は、確かに繊細で力強い。
「体が大きく腕も長いのが演奏面でも私の個性の一つ。良い音色を表現するために体全体を使ってピアノを弾いています」
演奏になると普段の柔和な表情は影を潜め、楽曲の世界観に没入していく姿が印象的だ。演奏する楽曲の理解を深めるときには、ファンタジックな情景を思い描くという。
「曲のイメージを想像すると、ファンタジーな情景が浮かぶことが多いです。幻想的な風景の中に流れる川、美しい森の中――」
「楽しい」だけは終わり
3歳からピアノを始めた。現在、音楽科のある桐朋女子高校でピアノの腕を磨き、校外でもピアノ講師のレッスンを受けている。高校生活はより音楽に没頭する環境となり、ピアノと向き合う姿勢に変化が生まれた。
「中学まではピアノを楽しんで弾いていました。今もピアノを弾くのが楽しいです。でも自分の音楽性や表現力をもっと深めるためには、楽しいの先にある高みを目指していかなきゃと感じるようになったんです」
地道な反復練習を重ねて
「高みを目指したい」「子どもの奏者から大人の奏者へと変わりたい」そんな思いを胸に、演奏楽曲への理解を今まで以上に深めた。
「音楽家がどんな思いを込めて作曲したのか、どんな時代背景の中で曲が誕生したのか。それらを知って、自分はどんなイメージを膨らませて音を出せば良いのか考えました」
また、自分の求める音を響かせるために、練習法をつきつめた。「鍵盤にかかる指の方向や力の入れ具合、指のどの関節を意識すれば求めている音が出せるのかといった、手の筋肉の動かし方を意識した練習を繰り返したんです」
そんな濃密な練習に励んだ結果、「ピアノの先生から『音色が変わったね』と言っていただきました」。地道な練習の反復が続く毎日だが、「ピアノを弾きたくないなんて思ったことは一度もない」
演奏聞き返し反省し
昨年は「第39回全日本ジュニアクラシック音楽コンクール全国大会」のピアノ部門高校1年生の部に出場し、2位(1位該当者なし)の最高順位に輝いた。「審査員の先生方から講評をいただけたり、全国から集まる同世代のピアニストの演奏から刺激を受けたり。コンクールへの出場は、普段の練習のモチベーションに繋がっています」
コンクールを今の実力を客観的に認識する機会として捉えてもいる。「自分の演奏を聞き返して、ここは失敗したな、この部分がまだ足りないな、と考えるようにしています」
深呼吸と笑顔で緊張やわらげ
田中さん曰く、大舞台の演奏前は「とても緊張するタイプ」。本番直前、舞台袖で「深呼吸」をし「笑顔」を作ってから臨むのがルーティンだ。「この2つは、本番で最大限のパフォーマンスを引き出すために必ず行うんです。大きく深呼吸して、顔がこわばらないよう笑顔を作って体全体の力みをほぐします」
そしてコンクール時には、鞄に「宝物の鉛筆」を忍ばせている。小1のとき、ハンガリー出身のピアニスト・故ゾルタン・コチシュ氏と偶然交流の機会に恵まれ、その際にもらった品だという。「持っているだけで勇気づけられる」と、笑みをこぼす。
私の想像の世界へ!
自身のピアノ演奏を多くの観客に届けるのが何よりの喜びであり目標だ。「私の演奏でお客さんたちが『楽しいな』『この音いいな』と感じてもらえたら嬉しい」
田中さんの音色が観客たちを想像の世界へと運んでいく。「私の想像する楽曲の世界観がお客さんたちにも伝わるような演奏をするが一番の理想です」
田中さんのある一日のスケジュール
- 6:00
- 起床
- 6:30~
- 学校のレッスン室で個人練習。寝起きの体をほぐすウォーミングアップとしてスケール(音階)練習に励む
- 9:30~
- 授業。専門科目としてピアノを学ぶ。音楽以外での好きな教科は体育
- 16:00頃
- 下校。自宅で夕食。ピアノ練習
- 20:00~
- 再び学校のレッスン室に戻り練習。取り組んでいる楽曲の部分練習。表現力を磨くことを心掛けながらの演奏を行う
- 22:30頃
- 勉強や自由時間
- 24:30
- 就寝