埼玉医科大学 保健医療学部医用生体工学科 奥村高広専任講師
医療と工学の知識を学び、医療機器の操作・管理を行う
病院で人の命を救うのは、医師や看護師などの人間の力はもちろん、医療機器の力も大きい。さまざまな医療機器の中でも、特に生命維持管理装置に関する専門知識をもつ「臨床工学技士」の存在も欠かせない。その資格取得を目的としているのが、医用生体工学科だ。
「臨床工学技士は国家資格で、生命維持管理装置を主とする医療機器の操作を行うほか、安全に使うための点検や可能であれば修理も行います。また、医師や看護師が使用する医療機器については、トラブルの対処法や安全に使うための教育活動も行います」と説明してくれたのは奥村先生だ。
では、生命維持管理装置とは具体的にどんなものがあるのだろうか。例えば、心臓の手術をする時に使う人工心肺装置、腎不全の患者さんに使う人工透析装置、患者自身で呼吸ができなくなった時に使用する人工呼吸器、植込み型ペースメーカなどがそれにあたる。臨床工学技士はこれらの医療機器の操作・点検を行うほか、心電図や血圧に関する機器、手術に使う電気メス、麻酔器などの点検なども行うそうだ。
「臨床工学技士は機器の操作・管理を正確に行うことはもちろんですが、その先には常に患者さんがいることを忘れてはなりません。実際に患者さんと接することもあります。例えば、人工透析では患者さんと話しながら治療を進める場面も」。
近年、臨床工学技士を採用する施設が増えているそうだ。「従来は医師や看護師が扱っていたものを、医療機器のスペシャリストとして臨床工学技士が管理することで事故を防ぐ目的もあり、需要が増えているのです」。
設備の整った附属病院も学びのフィールドに
臨床工学技士には、「医学」と「工学」の2つの専門知識が求められる。解剖学、生理学、さまざまな病気の症例や治療法のほか、特に循環、呼吸、代謝の3領域は深く追究する。それに加え、工学の知識を身につけなければならない。
「コンピュータ、電気、電子回路、機械工学など工学系の科目が目白押しですね。血液の流れが関係するので、流体力学などは特に力を入れて学ぶ必要があります。4年次の3月に受ける国家試験では、「医学」「工学」の両方の知識が問われるので、試験に準じた学びを提供しています」。
今年3月に行われた第27回臨床工学技士国家試験の同学の合格率は、全国平均78.8%を上回る91.9%(新卒合格者)と高い合格率を誇り、さらに学科就職率は100%という実績を誇る。 また、同学の強みは附属病院での実習が充実していること。
「本学附属の国際医療センターなど3施設を中心に、人工心肺、血液浄化、集中治療室、手術室などの領域で実習を行います。実習以前にも、モチベーションの向上を目的に、長期休暇を利用して、低学年のうちから現場を見せるようにしています。また、保健医療学部には4つの医療系学科があるので、チーム医療を意識しながら互いに学び合うことも可能です」。
さらに専任教員に豊富な臨床経験を持った臨床工学技士が7人もいるという。「現場経験者の生の言葉を聞くことで、学生は『医療人になるのだ』という意識を強くもつようになります。人の役に立ちたいという気持ちで医療系を目指す人に、まずは臨床工学技士という仕事を知ってもらいたいですね。治療の最前線で、医療人からも患者さんからも頼りにされる仕事に、ぜひ挑戦してください」と、奥村先生は高校生に熱いラブコールを送る。