近年、観光ビジネスのキーワードは「インバウンド観光」と言っても過言ではない。これは外国人観光客が訪れる観光のことで、日本では海外からの訪日観光のことを指す。その実情について、日本政府観光局(JNTO)の伊藤亮氏と善木麻依子氏に話を伺った。
日本経済に大きな影響をもたらした
過去最高の訪日観光者数
インバウンド観光が注目されるようになったのは、国土交通省が中心となって推進している「ビジット・ジャパン・キャンペーン」がスタートした2003年以降のこと。それまで日本の観光業界はアウトバウンド観光、つまり日本人の海外旅行が中心だった。しかし、同キャンペーン以降、訪日観光客は増え続ける。2015年には過去最高の1974万人を数え、日本人の海外旅行者数を45年ぶりに超えた。
メディアで話題となっている「爆買い」からもわかるように、インバウンド観光がもたらす経済効果は非常に大きい。2015年の訪日外国人旅行消費額は、3兆4771億円にも上り、日本の製品別輸出額と並べた場合、自動車部品に次ぐ第6位だという。
“モノ消費”から“コト消費”へ
変わりゆく日本の観光事情
そんなインバウンド観光にも変化が見える。伊藤氏によれば「従来の訪日観光は、東京・大阪・京都を中心とした名所観光でしたが、最近はリピーターを中心に幅広い地域に足をのばす傾向が見られます」とのこと。
今、「地方創生」の掛け声と共に地方活性化の動きが盛んだが、それに拍車をかけたのが、LCC(格安航空機)や北陸、九州、北海道まで新幹線で繋がった交通網だ。地方へのアクセスが容易となり、リピーターは日本のローカルライフを求め、日本人もあまり観光することのない地域まで足を運ぶようになった。
「ショッピングなどの“モノ消費”から、体験型の“コト消費”に移行しつつあります。例えば、美容室で最新のヘアスタイルやネイルを楽しんだり、伝統工芸の工房でものづくりするのも観光に。また、東京だけ、京都だけという点で売るのではなく、広域周遊観光ルート、つまり面で売る旅行へとシフトしつつあります」(伊藤氏)
ターニングポイントとなる4年後に向けて
アンテナを張ろう
観光業界と言えば、ツアーコンダクターなどの旅行業、ホテルパーソンなどの宿泊業がまっ先に思い浮かぶ人も多いだろう。しかし、実は飲食業、運輸業、お土産などの製造業まで含まれる。その上、前述のようにこれからの観光ビジネスは、美容室や工房など企画次第でボーダーレスだ。
そんな観光業界での活躍を夢見る高校生に、伊藤氏は「今の観光業は県などの自治体で区切れるものでなく、農業など異業種との親和性も高い。そこで求められる人材は、既存の枠にとらわれず、地域や業種を超えた調整能力をもっている人」とアドバイスする。「高校生にはまず地元に関心をもってほしい。海外に出ないと日本の魅力に気づきにくいのですが、海外にアピールする地元のよさを見つけてみてください」と善木氏。
2020年の東京五輪・パラリンピックは、日本の観光業界にとってひとつのターニングポイントとなる。4年後を視野に、すでにスポーツ観戦や文化的イベントなど、新たな観光客誘致の動きも活発化している。高校生もまた、観光業界の動向にしっかりアンテナを張って、今後の観光ビジネスに注目してほしい。
日本政府観光局とは?
外国人旅行者の誘致活動を行う日本の公的な専門機関。世界14都市に海外事務所を持ち、日本へのインバウンド・ツーリズムのプロモーションやマーケティングを行っている。