もし、部活の先輩からモラルハラスメント(モラハラ=精神的暴力)を受けたら、家に居場所がないと感じたらどうすればよいのか。景山好羽さん(鳥取敬愛高校3年)は、中学時代のこうした経験を乗り越えて穏やかな生活を取り戻した。「かつての私のように、苦しんでいる子どもや親の問題解決に少しでもつながれば」。同じ境遇に置かれている子どもたちに向けて、伝えたいことを話してもらった。(中田宗孝)

吹奏楽部の先輩からモラハラ、不登校に

「うまく演奏できないと、目の前でバチを折って、猛烈に怒られて……」

中学時代、吹奏楽部で打楽器を担当していた景山さん。先輩部員から受けたモラルハラスメントを機に、不登校になった。演奏中にミスをするたびに激しくののしる先輩部員に、景山さんの心は縮こまった。

ミスをすると激しく先輩からののしられて(写真はイメージ)

やがて部活を続けるのがつらくなり退部するも、「クラスメートに吹奏楽部員が多く、その環境が気まずくて次第に学校自体に行きにくくなってしまったんです」

皿を投げつけ、テレビを破壊する父

それからは家で過ごす日々が続いた。母親から「いじめられてるの?」「友達とけんかしたから?」と、不登校の理由を聞かれても「…分からない」と返すのが精一杯だったという。

「当時の私は自分自身のことがよく分かりませんでした。ただ両親から『学校に行きなさい』と言われ続け、『学校をサボっていると思われてる。この状態はサボりなんだ』と考えるようになっていきました。今なら『なぜ学校に行きたくないのか分からない』のも一つの答えだと思えるのに……」

皿を投げ、テレビを壊し…父の態度が娘を追い詰めた(写真はイメージ)

さらに家庭環境の悪化が彼女の精神状態を追いつめた。特に父親の態度が日増しに冷たくなり、料理の盛られた皿を床に投げたりテレビを破壊したりと、粗暴な一面も見せるようになっていた。

「学校にも家にも私の居場所はない」

のちに彼女の両親は離婚した。

自分を信じてくれた先生と出会って

中3になった景山さんは、自らの意志で親元を離れて施設で寮生活を始め、施設内の学校への通学を決めた。

「『今の状況を変えたい!』という強い気持ちが私に残っていたんです。それが勇気になり、カウンセラーの方に相談する行動を起こせました」

施設内の学校で数学を教える先生との交流をきっかけに、徐々に学校に通えるようになった。「先生は私に『学校に行きたいと思ったときに来て!』と、言葉を掛け続けてくれました。私に期待し、行動を起こすまで信じて待ってくれたんです。先生の包容力のおかげで学校が安心できる場所になった」

過去を乗り越え、演劇部部長として活躍

普通の学校生活を送れるようになり、景山さんはようやく心の平穏を取り戻した。現在は、施設の寮から高校に通う毎日を過ごしている。

演劇部に入部して、演技を通じて表現するすばらしさにとりつかれたという。上級生になると同部の部長を任され、仲間と作品づくりに夢中になった。

中学の部活で受けたモラハラや不登校に苦しんだ姿は過去になり、「充実しすぎなくらい、高校生活が楽しい」と笑う。卒業後は、母親の元で暮らし始めるという。

昨年は、文化部の全国大会「全国高等学校総合文化祭(2020こうち総文、今年はオンライン開催)」の「弁論」部門に出場。これまでの経験を語った。

モラハラからは逃げて、大人に助けを求めて

例え親が「学校に行ってみない?」と優しく促しても、「不登校になった子どもの心は救われない」と、自らの経験談を語る。

弁論を通じて自身の経験を広く伝える景山さん

「『私はもう学校に行かないって思われてるんだ……』と、不信感が募っていくんです。そうなると、親に本心を打ち明けなくなります。何とかして子どもを学校に行かせようとするよりも、親子の信頼関係を今まで以上に築くことを考えてほしいです」

当時を振り返り、似た境遇で悩む同世代には「そこから逃げてと伝えたい」と話す。「逃げることは悪いことだと感じないでください。私は部活を辞めて先輩のモラハラから逃げました。家庭から施設へ逃げて今の生活を手に入れました」

そして、未成年ゆえに協力者の助けも必要だという。「一人では状況を変えるのは不可能だと思うので、大人に助けを求めてください。私は先生やカウンセラーの方を信じて苦しい状況を打ち明けました。協力者のサポートを得るには、お互い信頼関係が何より大切。心を閉ざさず疑わず、まずは自分が相手を信じてみることです」