文化部の全国大会である「2023かごしま総文」の弁論部門に出場した西田圭吾さん(神奈川・慶應義塾高校3年)は、弁論中に突然黙り込んだ。そのまま10秒ほど沈黙し続け、静寂に包まれる会場。異例のスピーチをした西田さんの意図を聞いた。(文・写真 椎名桂子)
コロナ禍で会話を制限され
中学生のときに社会の授業でディベートを経験し、話し伝える面白さに目覚めた西田さん。ディベート部に入りたくて慶應義塾高校を目指したという。しかし、その高校時代の大半をコロナ禍が襲った。
「コロナ禍では、マスク、パーテーションが必須。会話しないことが『新しい生活様式』と言われ、話すことが活動だったディベート部や弁論部への視線は厳しいものがありました」
ディベートの大会もオンラインでの開催となり、弁論部では聴衆の反応をダイレクトに感じられることもなく、味気無さが残った。
話すことの大切さを痛感
そんな「会話のない高校生活」を通して、深く考えるようになったのは「話すことの必要性」だった。「話をすること以外には、お互いを理解する方法はないじゃないか!」。そのことを伝えるために、彼はこの弁論中に10秒間の沈黙を取り入れた。
「この10秒間、会場にいた人達が共有したのは静寂だけ。黙っていると何もわからないということを体感してもらいたかった」
何回も練習してきた沈黙だが、本番会場では聴衆も多く、静寂にできるか不安だったという。しかし結果は練習以上の静寂となり、そこから弁舌はさらに冴えわたっていった。
会話不足の社会になってはいないか
「話をすること」を放棄してしまえば、他者を理解すること、自分を理解してもらうこともできなくなる。そんな会話不足の社会では「事件や事故も増え、ひいては戦争だって起きかねない」と訴えた。
「話すことの重要性を再認識し、自分の意見を表明し、相手の意見にも耳を傾け、他者をも生かしていきたい!」