新型コロナウイルスの感染が収まらない中、受験シーズンに入りました。受験生は、風邪・インフルエンザ対策も含めた感染予防に気をつかっていることでしょう。感染予防にマスクが推奨されており、たくさんの種類が販売されています。マスクにどの程度の効果があるのか、マスクの種類によって何が違うのかを、内科医の建部雄氏先生に教えてもらいました。

空気感染の割合はかなり小さい

現在、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐために、マスクの着用が推奨されています。まず、なぜマスクをつけるとよいのかをお話しするために、ウイルスの感染パターンについて説明します。

今のところ、新型コロナウイルス感染症の感染パターンは主に接触感染・飛沫感染とされていますが、最近になって2つの事実が明らかにされています。

【1】空気感染があり得る

1つめは、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)やWHO(世界保健機関)も認める通り、新型コロナウイルス感染パターンに第3のパターン、水ぼうそうやはしかなどにもみられる「空気感染」も有り得ることが判明したことです

今後の研究で、新型コロナウイルス感染症の感染パターンにおいて「空気感染の割合が大きい」と判明した場合は、ウイルス粒子が飛沫粒子よりも微細なため、特殊な医療用マスク(N95マスク)装用以外はその感染防止・予防の効果がありません。

【2】無症状感染が存在する

2つめは、ニュースでも報道されているように、無症状感染者が一定の割合で存在するという事実です。

この2つの事実を考え合わせると、現時点では、新型コロナウイルス感染症について日常生活では「空気感染する割合はかなり小さい」と考えるのが妥当のようです。

よって、ここでは新型コロナウイルス感染症の感染経路が主に「接触感染・飛沫感染」であるとして、マスクの効用についてお話します。

マスクの性能は素材によって変わる

風邪症状によって咳やくしゃみが出てしまうときに必要になってくるのが、マスクです。マスクには2つの役割があります。

1つめの役割は、飛沫粒子を遠くに飛ばさない「蓋」の役割です。咳やくしゃみが出てしまう場合に、口と鼻の前に布が一枚あると、原理的にはこれによってブロックされてしまうので、飛沫粒子がその先にあまり遠く飛んでいきません。

この「蓋」の役割に関して、アメリカ合衆国のデューク大学の研究グループは、素材によって飛沫粒子を捉える機能に差があるかを検討し結果を発表しました。

99%台で飛沫を防ぐN95と不織布、布やウレタンは80%

実際の実験結果において、最も優秀だったのは特殊な医療用マスク(N95マスク)で99.9%、不織布マスク(サージカルマスク)は99%、飛沫粒子をブロックしていました。

 

次いでそれ以外の布マスクやウレタンマスクなどは少し効果が落ち、80%前後の飛沫粒子をブロックしていて、どれもだいたい同じでした。

効果が落ちるニット、バンダナ

大きく効果が落ちるのは、ニットマスク(毛糸で織ったマスク)で60%前後の飛沫粒子のブロック効果でとどまっています。

次いで、バンダナマスクは飛沫を抑える効果がさらに落ち、50%前後の飛沫粒子のブロック効果で終わっています。

フリースのネックゲートルは、逆に10%程度、飛沫を増やすという結果になっています。この理由として、研究者は大きな飛沫をより小さな飛沫にバラバラにしてしまっているためと考えています。

特殊な医療用マスク(N95マスク)が最もその機能が高く、次いで使い捨て不織布マスク(サージカルマスク)で、それ以外の素材によるマスクはかなり低レベルかと予想されたのですが、意外な結果です。

隙間がある限りウイルス侵入を完全には防げない

2つめの役割は、ウイルスを含む飛沫が口や鼻から侵入しないように防御する「盾」という役割です。

結論から言うと、特に「盾」という役割については言えば、一般的に出回っているマスクにウイルスの侵入を完全防御する能力はありません。ウイルス飛沫粒子は飛び散った後、周囲の空間の気流に乗ってゆっくり漂い落下しますが、どの種類のマスクであってもよほど厳密に鼻の横や頬の横、顎の下などの「隙間」を極力なくさない限り、飛んでいる飛沫粒子はそれらの「隙間」からすぐに侵入し得るからです。

マスクのパッケージや箱のラベルには、「この5層構造で/この特殊素材でウイルスの侵入をストップできます」といった効果を宣伝しています。ですが、盾という役割に関しては、布の性質や素材ではなく、「隙間」があるかないかが問題なのです。

東京大学医科学研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕教授らの研究グループは、新型コロナウイルスの空気伝播におけるマスクの防御効果とマスクの適切な使用法の重要性を明らかにしました。

その中で、新型コロナウイルスの遺伝子は、一般的に出回っているどの素材・種類のマスク着用時においても検出されています。今後のさらなる解析が必要ですが、「盾」という役割に関しては特殊な医療用マスク(N95マスク)を除いて、どの素材・種類のマスクも感染予防上、浮遊するウイルス飛沫粒子の吸い込みを完全に防ぐことができないことを示しています。

医療用マスクは高性能だが常用は非現実的

では、「特殊な医療用マスク(N95マスク)のみが使用されれば、感染予防の点でベストなのか?」という疑問にたどり着きます。

確かにこのマスクは密閉性が高くて、きちんと正しく装着すれば「隙間」ができません。空気中に浮いている病原体がマスクと顔の隙間から侵入しないよう、密着するように作られています。

医療現場では、きちんと顔に密着しているか確認して使っています。従って、このマスクを正しく着けていれば、ウイルス飛沫粒子が飛んできても心配がないのです。実際、医療現場では空気感染をする「はしか」の患者さんや肺結核の患者さんを診るとき等にもN95マスクは使われています。

しかし、N95マスクは密閉性が非常に高く「隙間」がありません。30~40分も経つと呼吸が苦しくなって、とてもそれ以上は着けていられないという欠点があります。

時折、バスや電車内で恐らくネット通販で入手したのであろうN95マスクを装着されている方を見かけます。やはり息苦しいからなのでしょう、ウイルスの侵入を許す「隙間」を作ってしまっています。その「隙間」を作ってしまったら、全く感染防御の意味がありません。

マスクケースを常時携帯して

以上のことから一般的に出回っているマスクに関しては、今のところ「蓋」という機能面で不織布マスク(サージカルマスク)が総合的に少しだけ優れているようです。

食事の際にマスクを取り外して一時保管する際の注意点としては、「自分専用マスクケースを常時携帯すること」「着用していたマスクの表にウイルスが付着している可能性があるので、食事などでマスクケースに一時保管する場合は、裏面(顔面に接触した側)が内側にくるように2つにたたんで入れること」の2点が重要です。

 
 
 

 

建部雄氏(たてべ・たけし)
医療法人社団聖仁会横浜甦生病院勤務。総合内科・一般内科が専門。京都市生まれ。2001年、昭和大学医学部卒業。大規模総合病院の救急科で経験を積み、急性期病院・クリニックの勤務を経て現職。