虫やその幼虫などを食べる「昆虫食」。見た目のインパクトの強さから抵抗感を持つ人も多いが、たんぱく質が多く栄養価が高いことで知られている。山﨑瑠奈さん(長野・上伊那農業高校3年)は、長野県各地に古くから続く昆虫食の文化を継承し、「虫食いガール」と称して広報活動を行っている。(中田宗孝、写真は学校提供)

授業で初めて昆虫をぱくり「おいしい」と感動

「うわっ、気持ち悪い! 私はこの虫を食べるのか……」

高1の冬、山﨑さんは授業の一環として、河川で行われている「ざざ虫漁」を体験した。

ざざ虫漁に挑戦

珍味として知られる「ざざ虫」は、川の瀬に生息するトビケラ、カワゲラ、ヘビトンボといった幼虫の総称。極寒の川の中に足を浸け、熟練の漁師の指導を受けながら大量のざざ虫の捕獲に成功したが…。「虫が網の中でうじゃうじゃと動くんです……。思わず気持ち悪いと思ってしまいました」

漁を終えて、調理されたざざ虫の佃煮を恐る恐る口に含んでみると、びっくり。「エビを食べているような食感で、香ばしくおいしい!」

昆虫食に対するネガティブな固定観念が一変し、虫食いガールの道をつき進むことになった。

ざざ虫

栄養価が高い昆虫食、伝統を継承しなければ

ざざ虫漁について調べを進めるうちに、昆虫食に無限の可能性を感じ、心躍らせた。「昆虫食は栄養価がとても高いことが分かりました。見た目や印象だけで判断して食べないのはもったいない。多くの人に昆虫食の魅力を伝えていきたいという気持ちが芽生えてきたんです」

昆虫食に目覚めた山﨑さん

そして、地元で脈々と受け継がれる昆虫食文化を「私たち若い世代が大切に継承していかなくてはならない」という思いも込めて、彼女は行動を始めた。

イナゴや蜂の子、カイコを実食しながら、昆虫食が自分と同世代に親しまれていない理由を考えた。「味のクセが強く好みは分かれる。何より、昆虫食の見た目が『グロい』と感じる人が多いのが大きな課題」

昆虫食は地域の伝統食ではあるものの、食卓に並んでいたのは高校生の祖父母の世代まで。また、地元のスーパーで販売する昆虫食品は、日常食として利用するには割高な高級食材であることも事実だ。「もっと気軽に昆虫食を食べてもらえるような工夫が必要だと感じました」

昆虫かりんとうを開発、子どもにも好評

そこで、さまざまな食材を加工して商品化を目指す「加工班」(同校の部活動の一つ)の部員とともに、昆虫食品の開発に着手。ざざ虫を入れたクッキーやパイ、ポテトサラダを作ってみた。

「お菓子系やおかず系は日常的に食べてもらえるかなって。昆虫を粉末にするなど、ひと目で昆虫食と分からないようにしたのもポイントです」

昆虫カリカリかりんとうを製造中
昆虫カリカリかりんとう、完成

なかでも、イナゴの粉末を使用したお菓子「昆虫カリカリかりんとう」は「甘くてカリカリした食感も楽しい!」と山﨑さん。同班が数年にわたり開発を進めてきた昆虫カリカリかりんとうを、地域のイベントで来場者にふるまったところ、好評を博したという。「小さいお子さんから『おいしい』と言ってもらえたんです。これなら昆虫が苦手な人でも食べてもらえる」と、自信を深める。

かりんとうの味は地元の人から好評だった

また、文化部の全国大会「全国高等学校総合文化祭(2020こうち総文、今年はオンライン開催)」の「弁論」部門に出場。昆虫食の魅力を伝えた。

高校卒業後は地元の食品会社に就職して「地域の方々のためにおいしく健康的な食品開発に携わっていきたい」と話す。もちろん、虫食いガールとしての大きな志も抱き続ける。「昆虫は宇宙食としても注目されているんです。私も宇宙食に採用される昆虫食品を開発してみたい」と、青写真を描いている。

弁論で昆虫食の魅力を発表した山﨑さん