テニス四大大会、3度目の制覇

テニスの四大大会の全米オープン女子シングルス決勝で、大坂なおみ選手(22)が元世界ランキング1位のビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)を破り、2年ぶり2度目の優勝を果たした。昨年の全豪オープン以来3度目の四大大会制覇となり、世界ランキングは9位から3位に浮上した。

大坂選手は第1セットを1―6で落としたが、0―2で迎えた第2セット第3ゲームから反撃に転じ、2時間近い壮絶な打ち合いの末、第2セット6―3、第3セット7―6で連取し逆転勝ちした。

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全米オープン女子シングルスで優勝し、トロフィーを掲げる大坂なおみ

射殺や暴行で殺害された黒人被害者の名前をマスクに

劣勢だった試合を強い精神力で見事に建て直し、選手として高い完成度を示した大坂選手。一方で、暴力の被害者となった黒人の名前入りマスクを着用するなど人種差別に反対する姿勢を明確に示し、精神的にも成熟した姿を見せた。

大坂選手は1回戦から決勝までの7試合、警官による射殺や暴行や白人男性による殺害で突然、命を奪われたすべて異なる黒人被害者の名前が入ったマスクを着用して試合会場入り。決勝では、2014年に警官の発砲を受けて死亡した12歳(当時)の黒人少年タミル・ライス君の名前が入ったものを身に付けた。

全米オープンの決勝に臨む大坂なおみ選手。警官の発砲を受けて亡くなった黒人少年の名を入れたマスクを着用(大坂選手のツイッターより)

一時は大会棄権を表明「テニスより重要なことがある」

父はハイチ出身、母が北海道生まれの日本人で、3歳の時に米国に移住した。「マイノリティー(人種的少数派)」という立場が、人権意識の原点となった。大坂選手は「私はアスリートである前に黒人女性。私のテニスを見るより、もっと注意を向ける多くの重要なことがある」と差別に抗議し、一度は大会棄権を表明した。

「世界で最も影響力のある100人」に選ばれる

米誌タイムは毎年恒例の「世界で最も影響力のある100人」に、日本からは自らの性暴力被害を公表したジャーナリスト伊藤詩織さんと並んで大坂なおみ選手を選んだ。

今年の全米は新型コロナウイルスの影響でツアーの再開後、四大大会で初の無観客試合となった。四大大会の規定では、社会的メッセージにつながるような物の着用は認められていない。だが今回は、大会の主催者が反差別の問題に取り組み、選手も人権やジェンダーに関わるメッセージを込めたロゴやシンボルなどを身につけることが認められた。

全米オープン女子シングルスで優勝した大坂なおみ選手(大坂選手のツイッターより)

優勝後のインタビューでマスクについて聞かれた大坂選手は「あなたはどんなメッセージを受け取ったのでしょうか? その方がもっと大事です」と答えた。

この大坂選手の問い掛けに、日本の高校生のあなた方はどう答えるのだろうか。(共同通信編集委員・遠藤一弥)

【大坂なおみ選手】15歳でプロに転向。2016年に女子ツアーを統括するWTAの最優秀新人賞を受賞し、18年の全米オープンで日本勢初の四大大会シングルスを制覇、19年には全豪オープンで四大大会を2連勝してアジア勢初の世界ランキング1位に就いた。180㌢。大阪市出身。