オススメの小説を高校生記者のざわさんに紹介してもらいました。

罪を犯した若者が老婆の優しさで変わる

『しゃぼん玉』乃南アサ著(新潮文庫、550円=価格は税抜)

『しゃぼん玉』/乃南アサ著(新潮文庫、550円=価格は税抜)

「ぼうは、ええ子」

これは『しゃぼん玉』に登場する、おスマじょうがたびたび放つ言葉です。放つ相手は、伊豆見翔人。強盗や通り魔を繰り返した男です。

自暴自棄になって逃亡していた翔人は、運転手を脅し、トラックに乗り込みますが、そのうち眠ってしまいます。宮崎県の知らない田舎の道に投げ出され、翔人は途方に暮れます。さまよい歩くうちに、おスマじょうというおばあさんに出会います。そして、村人たちに彼女の孫だと勘違いされたまま村に滞在し、村の仕事を手伝います。

「ええ子」自分を肯定されて

私は、主人公・翔人の心の変化がとても印象に残っています。翔人のことを「ぼうは、ええ子」と何度も肯定してくれるおスマじょうと過ごしていくうちに、そして、身体の痛みを知るうちに、翔人は以前繰り返した通り魔や強盗の被害者のことを考え始めます。

しかし、翔人の荒れた心が穏やかになるのは、簡単なことではありません。ささいなことで、翔人の心はまた、元のように荒れてしまいます。そのような場面では、翔人の葛藤が細かく描かれていることから、元に戻ってしまうのではないかと、本当にはらはらしてしまいます。 

過去に苦しみながらも…

この物語には「血筋」という言葉が出てきます。この村の人々の血筋はすばらしい、それに比べて自分は、などと翔人は悩むのです。血筋にとらわれる翔人を見ていると、人種差別など、今起こっているさまざまなニュースを思い出します。だからこそ、村人たちがそんな翔人に対して放つ言葉の一つ一つが、心にしみます。

変えることのできない過去や罪悪感などを、いつまでも引きずりがちな私は、翔人の、過去に苦しみながらも未来を考えだす姿にハッとさせられました。物語の最後は、涙なしでは読めません。

みなさんもぜひ読んでみてください。(高校生記者・ざわ=2年)