ジャーナリスト 藤田正美

質問

日本の貿易赤字の理由は?

2012 年4月から9月の日本の貿易赤字は3.2 兆円にもなっています。なぜこんなに赤字なのでしょうか。また、今はどの国が黒字なのでしょうか。 (東京・青山高校2年 越川雄貴)※ 今回は、東京・青山高校2年1組の生徒全員が質問を考えてくれ、その中から越川君の質問に回答しました。


回答



円高やエネルギー輸入増加が赤字を招く



日本の今年度上半期(4~9月)の貿易収支は3.2兆円という大幅な赤字になりました。下半期は、さらに赤字が膨らむことも予想されています。対中関係の悪化によって、中国への輸出が打撃を受けることや、世界的に景気が停滞していること、さらに円高、原発停止による輸入エネルギーの増加などが要因です。



実は昨年度、日本は32年ぶりに4.4兆円の貿易赤字になりました。2011311日の東日本大震災やタイの洪水で日本の製造業が大打撃を受けたためでしたが、今年度は黒字に戻ると予想されていました。それだけに今年度の赤字の衝撃は大きいといえます。



多国間で行われる貿易では、赤字の国もあれば黒字の国もあります(全部の国の黒字と赤字を足し合わせれば当然ゼロになります)。日本が長年黒字を続けてきたときには、アメリカは赤字でした。とくに日米間で日本の輸出超過が目立っていたため、アメリカからよく苦情が出ていました。いま最も代表的な黒字国は中国です。



貿易は外貨で決済されるため、赤字が続けば外貨が減ります。しかし日本の場合は、所得収支という国際収支が大幅な黒字になっています。所得収支というのは、日本が海外に投資した資産が生み出す利子や配当などの利益です。昨年度は、この所得収支の黒字で貿易赤字を補って、日本の国際収支としては黒字でした。



これまで日本は、貿易で稼いで経済を発展させてきました。それが今できなくなっている大きな理由は、円の為替相場が高いことにあります。円が高いと、輸出企業の価格競争力が失われます。そのため日本で生産していた企業が、海外(例えば中国や東南アジアなど)に工場を移転してしまいます。当然、日本からの輸出は減り、中国や東南アジアからの輸出が増えるということになります。



輸出が減る分をどこで補うのか。それが日本の成長戦略ということになるのですが、産業を高度化していくしかないと思われます。たとえば省エネルギーや医療の分野で技術革新を進め、新しいビジネスモデルを構築することが必要とされています。

 


?考えて見よう


昨年の原子力発電所の事故によって、今、日本の原発はほとんど止まっています。そのために液化天然ガス(LNG)や石油の輸入が増え、貿易赤字の一つの原因になっています。もし赤字が大きくなりすぎるようだったら、原発を動かすのも仕方がないと考えますか。

ふじた・まさよし1948年生まれ。東京大学卒業後、「週刊東洋経済」記者・編集者を経て「ニューズウイーク日本版」創刊プロジェクトに参加。同誌編集長、編集主幹。現在はフリージャーナリストとして活躍中。