第71回全日本バレーボール高校選手権(春高バレー)女子決勝が1月12日、武蔵野の森総合スポーツプラザで行われ、東九州龍谷(大分)が古川学園(宮城)を下し、8年ぶり7度目の優勝を果たした。昨年、一昨年の大会は準優勝。しかもどちらも敗れたのは同じ金蘭会(大阪)。「負けっぱなしで終わるわけにはいかない」と悔しさを力に、最後の春高の準決勝でリベンジを果たした。その中心には時に厳しく、嫌われ役に徹した優しい主将の存在があった。(文・田中夕子、写真・中村博之)
2年連続金蘭会に敗退…悔しさを原動力にして
三度目の正直。東九州龍谷(大分)の主将、荒木彩花(3年)は周りにその言葉を発するたび、自分に言い聞かせてきた。
「1年、2年と決勝で金蘭会に敗れた悔しさを最後の最後で晴らすんだ。三度目の正直を達成できるのは、3年間最後に負けて悔し涙を流してきた私たちだけなんだ」と。
184センチと女子選手の中ではひときわ目を引く高さを武器に、1年時からコートに立ち続けてきた。
高校での活躍のみならず、U20世界ジュニア選手権など世代別の日本代表にも選ばれるなど、名実ともに名門・東九州龍谷の顔であるのは間違いない。
優しい主将、心を鬼にして
2年続けて決勝で敗れた悔しさを晴らすべく、主将に任命されたが竹内誠二監督曰く「もともとおとなしくて優しい性格」の荒木にとって、どうすればチームを引っ張れるのか。
最上級生になってからは葛藤の日々が続いた。
「やるしかないんだ…」叱責もいとわず、細部まで気を配り
勝つためには優しさばかりではなく厳しさも必要だ。本当は褒めて、励まし合いたいと思っていても、心を鬼にして周りを叱責し、嫌われ役に徹する。
「その姿がチームをまとめてくれた」と言うのはリベロの吉田鈴奈(3年)だ。
「普段の練習中から『どうしてそのボールを簡単に落としちゃうの?』と言葉にしたり、寮生活も細かいところまで荒木が厳しく気を配ってくれた。そのおかげでみんなが“やるしかないんだ”という思いを持つことができました」
崖っぷちでも主将は笑顔
昨年、一昨年と決勝で敗れた金蘭会と準決勝で対戦。3年生にとってはまさに“三度目の正直”となった試合は、まさに1点を争う大熱戦。
1セットを東九州龍谷が先取したが、2、3セットは金蘭会に連取され崖っぷちに追い込まれる。しかも第4セットも4-3と相手にリードされたが、そこで下を向くのではなく、荒木は笑顔で声をかけた。「今が正念場。ここが面白いところだし、ここを粘れば勝てるよ!」
つながった1本に心励まされ
焦りがなかったと言えば嘘になる。だが、これが最後の大会なのだから冷静に、でも笑顔を忘れず戦い切りたい。自らのスパイクで得点しようと攻撃するも金蘭会も荒木を徹底マーク。
だが、ブロックに止められたボールもコートへ落ちる前に仲間がフォローしてつないでくれた。誰が上げたかわからない。でもその数字には残らない1本が支えだった、と荒木は言う。
「キャプテンが止められるとチームの士気が下がる。1本1本、“お願い!”という思いで私は打っていて、それを本当にフォローしてつないでくれる。それがチームの士気も高めてくれたし、自分の励みにもなりました」
「胸を張って、大分に帰れる」
そんな主将の姿が「チームにとっても大きな力になっていた」というのは3年間共に戦い続けて来た吉田だ。
「大事なところで決めて、周りに声をかけてくれる。彩花のガッツポーズが、チームを流れに乗せてくれました」
勝利の瞬間は全員がコートに駆け寄って、泣きながら抱き合う。苦しんで、苦しんでようやくたどり着いた日本一。主将として感謝の言葉を述べ、最後に荒木が言った。
「1試合1試合、すべてに全力を注ぐことができた。胸を張って、大分に帰れます」
まさに、三度目の正直。胸にかけた金メダルと同じぐらい、笑顔が輝いていた。
- 【チームデータ】
- 1927年創部。部員23人(3年生10人、2年生5人、1年生8人)。2009年から12年まで春高4連覇を達成し、18、19年は共に準優勝。長岡望悠、鍋谷友理枝、岩坂名奈など多くの日本代表選手も輩出している。