昨年のインターハイ、今年1月の春高バレーを制した駿台学園(東京)。2冠を成し遂げたが満足することなく、今季は昨年果たせなかった「3冠」を狙う。そのチームの中心となるのが、高校随一の大型アタッカー、川野琢磨(3年)。高さという武器を持ちながらも、新たな技を磨くべく壁に直面しながらもインターハイではさらなる進化と成長を誓う。(文・田中夕子、写真・幡原裕治)
「もっともっと練習を」
今季の目標は昨年に続くインターハイ連覇にとどまらず、国体、春高を合わせた高校3冠のタイトルを獲得すること。その中心になるのが、川野だ。197センチと高校生だけでなく、Vリーグや日本代表選手の中でも長身選手の部類に属し、連覇を達成した春高では昨年から出場機会を得た。今年度の高校男子バレーボール界では注目選手の一人なのだが、川野自身は「まだまだ課題ばかり」と謙遜する。
新ポジションで「壁」痛感
頂点に立った昨年は、主将を務めた亀岡聖成(筑波大)や荒井貴穂(明治大)といった守備力のある選手もそろい、堅守からさまざまな場所で攻撃展開する。相手ブロックがそろった時は無理に打って決めようとするのではなく、ブロックに当ててチャンスボールからの攻撃を仕掛けるなど、高校生ばなれした巧みなテクニックも駿台学園の武器だった。
だがメンバーが替われば、当然チャレンジするバレーボールのスタイルも変わる。昨年はディフェンス力に長けた選手が揃っていたため、精度の高いコンビバレーを武器とした。だが今季は守備面を課題とするため、より攻撃的な布陣を敷いた。
昨年はオポジットという攻撃専門のポジションに入った川野も、今年はスパイクもサーブレシーブも担うアウトサイドヒッターにポジションを変更。加えて、相手の攻撃から続いたラリーや、ブロックがそろった状況で高く上がったトスを打ち切るのも、川野の役割でもある。
197センチという高校では圧倒的な高さがあるのだから、たやすいことのようにも感じられる。しかし川野自身も「まだトレーニングで身体もできあがっていないので、パワーもテクニックもない」というように、ラリーが続き、運動量が増えれば思い通りの状態で打てるとは限らない。
「今年からはポジションが変わったので、レシーブもできるようにならないといけないんですけど、正確性がない。もっともっと練習しないとダメだと、毎日課題が生まれています」
5月に大阪で行われた、Vリーグや大学、クラブチームが一堂に会して戦う「黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会」(日本バレーボール協会、毎日新聞社主催)に高校王者として出場した川野は、まさにその「『壁』を痛感した」と振り返る。「ブロックが高いのは当たり前で、簡単に決められない。もっと自分が工夫していろんなことができるようにならなきゃ、と実感しました」
守備も攻撃もできる選手に
バレーボールは小学校に入る前から始めた。幼少期から身長も高く、さまざまなポジションも経験してきたなかで、最も難しく、「やらなければいけないことが多い」というのが今チャレンジしているアウトサイドヒッターだ。攻撃に加えて、サーブレシーブも重要なポジション。日々の練習で感覚や技術を磨くのはもちろんだが、大学やVリーグ、日本代表など川野が「こうなりたい」と描くイメージに近いバレーボールを展開するチームや選手の映像も積極的に見て学んでいる。
「チームとしても(後衛中央からの速い)バックアタックを武器としてやっていこう、と掲げているので、そこはすごく見ます。ただ高いトスを打つだけでなく、速いトスにも対応できるようになれば、戦い方も増える。ディフェンスも、これからサイドとしてやっていくには絶対必要です。レシーブ力をつけるのはもちろんですけど、そこから攻撃を決められる選手にもなりたい。(日本代表の)髙橋藍選手のように、守備もできて攻撃力もある選手になるのが目標です」
できることを増やす
単に勝利を求めるだけならば、川野は高さを生かしてどんな相手でも上から打てばいい、と考えるかもしれない。しかし、将来を見据えればその戦い方ではいつか限界を迎える。今はまさにそのための武器や、できることを増やす時期だ。リベロの谷本悦司主将(3年)は「川野の成長は攻撃力を武器として打ち出す今年の駿台学園にとって大きな要素」と語り、ディフェンス面でのサポートを誓う。
「どのチームも駿台を倒す、と向かってくるのは昨年以上だと思うし、昨年のような守備力もない。だからこそより多く点を取るために、川野にはハイセットを打てる力をつけてほしいし、前衛、後衛から攻撃に入って決めてほしい。レシーブも狙われると思うけれど、少しでもフォローして、『攻撃陣を生かせるように自分ももっと頑張らなきゃ』と感じるし、チームとしての力もつけていきたいです」(谷本)
きつい時こそ冷静に
黒鷲旗ではVリーグのサントリーサンバーズ、北海道イエロースターズ、順天堂大学に敗れ、予選敗退となったが、会場からは格上の相手にも堂々プレーする姿に惜しみない拍手が送られた。だがその称賛にも満足することなく「悔しかった」と川野は言う。求めるのはさらなる成長だ。
「格上の相手と戦って、体力や筋力が足りないと実感しました。夏のインターハイも暑い時期に連戦が続くので、精神的にも肉体的にもきつい時が絶対にある。でもだからこそ、そういう大事な局面で雑なプレーやミスをしないように、冷静にプレーできるように、もっと日頃から自分を追い込んでいきたいです」
高さという武器におごることなく、目指す「3冠」に向け、貪欲に成長を誓う。圧倒的な力で制した昨年に続く連覇達成なるか。王者の戦い、そして日本の将来を担うエース候補の戦いに注目だ。
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かわの・たくま
2006年7月25日、東京都生まれ。小学校入学前にバレーボールを始め、東金町ビーバーズから淵江中へ進み、全国優勝。中学3年生のときに東京都選抜として出場したJOC杯全国都道府県対抗中学大会でも優勝、MVPも受賞した。197センチ、74キロ。