昨夏のインターハイを制した東山のエースとして、U18日本代表でも活躍した尾藤大輝(びとう・ひろき)(京都・東山3年)。武器である跳躍力を生かした攻撃で着実に進化を遂げる一方、尾藤の胸に残るのは「勝たせることができなかった」今春の苦い記憶。最上級生として迎えるインターハイ、「心のスタミナ」を高め、連覇をかけた戦いに挑む。(文・田中夕子、写真・中村博之)

「心のスタミナ」高める

昨夏のインターハイを制した輝かしい記憶よりも、新春の春高バレー準決勝で敗れた悔しさ。東山のエース、尾藤大輝に色濃く残るのは後者だ。

「競り合った場面で自分がサーブ、スパイクでミスをして流れを持っていかれてしまいました。エースというのは最後に託されるポジションなのに、その大事な場面でミスをしたら仲間は安心して託せない。技術はもちろんですが、自分にとって一番の課題は『心のスタミナ』を高めることだと痛感させられました」

高さを活かしたスパイクを武器に「三冠」を目指す

ジャンプ力を生かした高い攻撃力で、1年時からエースとして活躍が期待された。実際に春高、インターハイなど多くの全国大会を経験したが、勝負がかかった場面で「自分が決めなきゃ」と攻め急ぐあまり、ミスになって相手へ得点を献上することも少なくなかった。

「例えば後ろから来たトスとか、苦しい状況でつながったボールも、今までは『絶対に打ち切って自分が決めてやる』と自分のことしか考えなかったんです。でも相手はマークしてくるからブロックに止められることもあるし、無理に打つことでミスにもつながる。そうなると今度はミスをするのが怖くて逃げのプレーもしてしまう。勝ち切るためにはメンタルをもっと強くしなきゃダメだ、と実感しました」

あえて打たず爆発力磨く

東山高のエースとしてだけでなく、U18日本代表にも選出され、日の丸をつけたチームでもエースとして活躍する尾藤は紛れもなく東山の中心選手だ。当然相手も試合序盤から尾藤にマークを厚くすることは想定済み。 そこで確実に得点するために何が必要か。

東山を率いる松永理生監督が掲げた課題も「ミスを減らして、勝負所での決定力を高めること」。特に最上級生となった4月からは、あえて尾藤に上げるトスの本数を減らし、限られた状況で着実に決めきる力を求めてきたと松永監督は言う。

「もともと(尾藤は)攻撃力のある選手ですから、1セットに15本打たせるのは簡単です。でも力のある選手だからこそ、さらに上を目指してほしいし、成長してほしい。そのためにあえて本数を減らし、ココ、という場面で必ず決めるにはどう打って、どんな判断をすべきか。考える力をつけてほしかった。エースと呼ばれる選手は『もっと打ちたい』と思うのが当たり前なので、今はあえて我慢することで爆発力を磨いてくれ、という思いも込めています」

後輩と課題共有、絆育む

勝敗を分けるような大事な場面で、迷わずトスを上げてもらうために何が必要か。尾藤は高校だけでなく大学や日本代表の試合映像を繰り返し見た。攻撃のパターンや、セッターとのコンビネーション。自分たちと比べて何が違うかを分析しながら、必要だと思うことは下級生セッターの太田渉稀(あゆき)(2年)にも共有してきた。

勝負所で1点をもぎ取る尾藤。エースとして強い覚悟でインターハイに臨む(2023年1月の全日本高校選手権準決勝で撮影)

「渉稀はいろいろな攻撃を取り入れようとしてくれているのですが、このローテーションはこの攻撃が多くなりがち、というクセもある。全国大会で優勝争いをするチームは、みんな分析して東山対策を立てて臨んでくるので、消せる課題は消せたらいいな、と思うし、渉稀の組み立てを尊重しながらも、ここが大事なポイントだと思う時にはトスを呼んで、自分に上げてくれ、と前よりも積極的に伝えるようになりました」

その姿勢は後輩の太田にも伝わっている。「大輝さんの『レフト!』と叫ぶ声が大きく聞こえた時は、間違いなく自信がある時なので、迷わず(トスを)持って行きます。攻撃のバランスもあるけれど、目を見たら『今日は大輝さんが乗っている日だ』と伝わるし、絶対に決めてくれるので心強いです」

「絶対勝てる」三冠目指す

インターハイ出場をかけ、6月11日に開催された京都府予選決勝で洛南に勝利し、全国出場を決めた。連覇のかかる大会であり、春高で敗れた悔しさを糧に、進化した姿を見せつける大会でもある。3年生で迎える最後の夏、尾藤も並々ならぬ覚悟を抱いている。

「今年のチームは全員が打てて、全員で守れる。全員が存在感を発揮すれば絶対に勝てると思うので、その中で自分も自分の長所や武器を出し切れるように戦いたい。チームの目標は日本一、高校三冠です!」

エースとして頼もしさとたくましさを増した尾藤が、この夏どんな姿を見せるのか。今から楽しみだ。

びとう・ひろき 2005年5月8日、岐阜県生まれ。各務原市立桜丘中出身。中学時代はクラブチーム「フレンズ」に所属。東山高1年時からレギュラーとして全国大会に出場。2年時にはU18日本代表としてU18アジア選手権で優勝。MVPにも選出された。187センチ、71キロ。