名門・鎮西(熊本)で、1年生ながらエースを務める一ノ瀬漣(れん)。夏のインターハイで駿台学園(東京)に敗れた悔しさから、課題を克服し準備を重ね成長を遂げてきた。「初めての春高バレー(全日本高校選手権)」という大舞台でも、自慢のバックアタックとサーブを武器に挑み、ベスト8の結果を残した。(文・田中夕子、写真・中村博之)

「自信を持って攻める」美しいバックアタックが武器

コート後方から高く飛び上がり、美しいフォームでスパイクをたたきつける。鎮西の1年生エース、一ノ瀬漣が放つバックアタックはほれぼれするほど美しい。攻撃を武器とする一ノ瀬が、最も「自信を持てる」と胸を張る。

高さを活かした攻撃で2枚、3枚ブロックをもろともせず多くのスパイクを決めた

「中途半端に打つのではなく、思い切って攻める。そうすればどんな相手にも通用する、と『あの時』の練習試合で自信を持つことができたので。今も、自信を持って攻めるように意識しています」

「全然決まらない…」駿台学園に敗れたインターハイ

一ノ瀬が「あの時」と振り返るのは昨年6月。昨年、一昨年と春高を連覇した駿台学園(東京)との練習試合だ。前回大会の優勝メンバーも残る相手と10セットを戦い、1セットしか得られなかった。しかし「全く通用しないと思っていた」という相手に対しても、ラリー中から積極的にバックアタックを呼び、高い打点から放ったスパイクが次々決まった。高さと組織力を誇る駿台学園にも十分通用する手応えを得た。

勝利の喜びも敗れる悔しさも味わい、来年はさらなるレベルアップを誓う

「あの強い駿台に対しても決められた」。少なからぬ自信を持って昨夏のインターハイに臨んだが、準決勝でその駿台学園に敗れた。
「自分のところには常に高いブロックが来て、ブロックを抜いても抜けたコースに必ずレシーバーがいるので全然決まらない。全国大会に行くと『こんなに対策されるんだ』と、改めて違いを実感しました」

 小学生の頃から「鎮西のエース」を夢見て

バレーボールを始めた小学生の頃から、チームではエースと呼ばれる存在にいた。始めて間もない頃、テレビで初めて見た春高で、優勝したのが鎮西。相手のブロックが立ち並ぶ中でも、逃げずに攻めるエースを中心に戦うエースバレーに憧れ、当時から「鎮西に入ってエースになりたい」と夢見てきた。
入学直後から出場機会をつかみ、まさに有言実行へとつながる道を歩んでいるのだが、最初の全国大会となったインターハイでの駿台学園戦は、一ノ瀬にとって高校で最初にぶつかった「壁」だった。
「鎮西のエースと呼ばれる選手は、たとえどんな状況でも絶対決めるし、決めないといけない。自分はまだまだ足りない、と思い知らされました」

強いエースになるために「必要なことがもっともっとある」

さらに強いエースになるためには何が必要か。連戦の続く春高を見据え、試合が重なり、マークが厳しくなる中でも攻めきる体力と筋力を高める。夏のインターハイと秋の国体を終えてからは、それまで以上にトレーニングを重視してきた。

攻撃だけでなくレシーブ力でもチームに貢献した

「チーム全体で毎日必ずやるトレーニングに加えて、スパイクに必要な筋肉を鍛えるためには、どのトレーニングが必要なのか。自主練が終わった後にダンベルを使ってスクワットをして、腹筋や背筋、体幹を鍛えるようになりました。まだまだ自分は高さも技術も実力も足りないと思っているので、どんなブロックが来ても吹き飛ばせるような力もつけたい。必要なことがもっともっとあると思っています」

「強いエースになるために」サーブに磨きかけ

強い鎮西の、強いエースになるために、バックアタックだけでなく、サーブにも磨きをかけてきた。「めちゃくちゃ緊張していた」と振り返るのは、春高出場を決める熊本大会だ。熊本工業を相手にした決勝では、1本目のサーブで見事なサービスエースを決め、「あの1本で緊張がほぐれた」と笑いながら振り返る。サーブは、一ノ瀬にとって自身の調子を上げるためのきっかけとなるプレーであり、その日の調子を見極めるためのバロメーターだ。
「思い切り打つサーブと、確実にコースやターゲットを狙うサーブ。それぞれミスがないように練習から意識して交互に織り交ぜて打ってきました。サーブはバレーボールで唯一、相手から邪魔されないプレーなので、もっと極めて強化していきたいです」

「鎮西の一ノ瀬」を知ってもらいたい

小学生の頃から憧れた春高の舞台に立つ。目標である日本一をかなえるために、乗り越えなければならない壁もプレッシャーもあるが、それ以上に上回るのは楽しみだ。

「楽しみたい」と言いながらも「支えてくれた3年生のために勝ちたい」と戦った

「1年生で体験できる春高は一度だけ。だから一番は楽しみたいと思うし、3年生のすごい選手たちにも負けないように、1年生の自分でも通用するところを出していきたい。ずっと見てきた大会なので、春高で『鎮西の一ノ瀬』とみんなに知ってもらえるような大会、春高にしたいです」

準々決勝で敗退「自分のせい」と涙、悔しさを原動力に

有言実行、とばかりに初戦から一ノ瀬は躍動した。だが準々決勝で東亜学園(東京)に敗れ「スタミナが持たず、自分のせいで負けた。支えてくれた先輩に申し訳ない」と涙した。
この涙が、きっとさらに強くなる原動力になる。もっと逞しくなった姿で、必ず、日本一になる。

いちのせ・れん 2008年9月30日、佐賀県生まれ。大和中(佐賀)卒。両親の影響で小学2年からバレーボールを始め、中学3年時には全国中学生選抜にも選ばれた。目標とする日本代表主将の石川祐希と同じアウトサイドヒッター。191センチ。