私たち生物の細胞一つ一つに存在するDNAは、絶えず傷ついているがその傷を修復する機能が細胞にはある。昨年、そのメカニズムを解明したトーマス・リンダール博士、アシス・サンジャール博士、ポール・モドリッチ博士の3人がノーベル化学賞を受賞した。3人の研究内容を解説する。
(日本科学未来館 科学コミュニケーター 松浦麻子)

■DNAは繊細な「設計図」

DNAは、チミン(T)、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類の塩基、糖、リン酸からなる高分子で生き物の「設計図」だ。決まった塩基のペアで作られた二重らせん構造をしており、細胞が増えるときは必ずコピーされる。

DNAは紫外線やたばこ、放射線などにより、1つの細胞につき1日あたり数万から数十万回も傷ついている。その傷は老化やがんなどの疾患の原因になる。

■傷つき方で異なる修復方法

DNAが傷ついたままだと細胞は元の姿で増えることができないが、細胞には傷つき方に適した修復をする「DNA修復」と呼ばれる機能がある。受賞者の3人は、塩基についた傷を取り除き修復する「除去修復機能」のメカニズムをそれぞれ解明した。

DNA修復機能が解明されれば、DNAの傷を修復し細胞を健全に維持する方法や、DNAを傷つけ続けることで、例えばがん細胞のような疾患原因の細胞を弱らせる方法を試すことができる。DNAの修復機能を解明することは、生命維持機能の開発にもつながっている。

■なぜDNA研究で化学賞?

今回ノーベル賞を受賞した研究に共通していることは「酵素がDNA分子と反応しDNAの傷を修復している」ということ。つまり、細胞の中で起こる「化学反応」を解明したので、ノーベル「化学」賞が授与された。

サンジャール博士の「ヌクレオチド除去修復」 

・紫外線によるDNAの傷
 ・たばこも同じ傷をつける

 

細胞の中に入ってきた紫外線などは、隣り合った塩基同士をつなぎ、二量体という異常を作る。このような異常は、DNAヘリカーゼという酵素で二重らせんをほどき二量体を含む部分を切り取った後、DNAポリメラーゼで正しい姿に修復する。

モドリッチ博士の「ミスマッチ修復」 

 

細胞が増えるとき、DNAの二重らせんをほどき、原本の塩基と正しい塩基のペアを作ることでコピーされるが、ミスが生じることがある。そこで、細胞はDNAのコピー直後に必ず、MutSとMutLという酵素でミスがないかチェックする。ミスが見つかるとMutHという酵素で原本がどちらなのかを判断し、コピーDNAのミス周辺を切り取り、正しいコピーを作る。

 リンダール博士の「塩基除去修復」 

 

塩基に異常が発生し、間違ったペアができた際に、間違っている塩基をグリコシラーゼという酵素で切り取る。その後、ヌクレオチド(4種の塩基のうちの1つと、リン酸と糖が結合したもの)の残りの部分を切り取り、DNAポリメラーゼとDNAリガーゼという酵素で異常のあった箇所を埋める。

科学コミュニケーターって?

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