身近な存在だからこそ、両親との付き合い方に悩む人も少なくないのでは。親子関係に悩んだときの、考え方と対処法を、発達心理学を専門とする菅原ますみ教授(お茶の水女子大学)に聞いた。 (安永美穂)

大人モードで話そう

 

―親子関係の悩みを解決するために大切なことは?

幼い子どもにとって、親は「絶対的に正しい」と思える存在ですが、高校生になると自らの親子関係を客観的に見ることができるようになります。親が自分のストレスを子どもにぶつけているケースもあるので、「なぜこうなっているのか」という原因を分析し、親との衝突を減らすための戦略を立てることが大切です。

―戦略とは?

まずは、大人モードのコミュニケーションを心掛けましょう。「外部の知らない人に対しても、こういう口のきき方をするだろうか」と考えた上で、言い方を選ぶことが大切です。ひとりの大人として相手をリスペクトした上で、「でも、その関わり方はやめてほしい」と伝えた方が親も受け入れやすくなるはずです。

また、相手の状態をよく見た上で、タイムリーな情報収集と話し合いを行うことも大切です。進路の希望を伝えるなら、学べる内容や学費が分かる資料を用意するなど、自分が「こうしたい」と思う根拠を具体的に示しながら、時間を掛けて話をしていくことで説得力が増します。

親との境界線を意識して

―事態が改善しない場合はどうすればいいですか?

「親は今こういう状態だから、こういう言動を取っている」「でも自分は自分のできることを頑張っている」というように、親と自分との境界線をはっきりさせることが大切です。そして、「お父さん(お母さん)も大変だろうけど頑張ってね」という気持ちは抱きつつも、心に透明なシャッターを下ろすようなイメージで、「これは自分ではなく親が抱えている問題だ」と認識して精神的な距離を取りましょう。高校卒業を機に、親元を離れて物理的に自立するというのも一つの方法です。

虐待は抱え込まず相談を

―親の言動に傷付けられることが続いているときは?

親だからといって、子どもに何をしてもよいわけではありません。厚生労働省は、上に挙げたようなことは「虐待」に当たると定義しています。親子の歴史を振り返ってみたときに幼少期から同じことが続いている、親がうつ病や更年期などの心身の不調を抱えて状態が悪いといった場合は、子どもからの働き掛けでは事態の改善が難しいこともあります。その場合は一人で問題を抱え込まずに、もう片方の親やスクールカウンセラーなど、自分のことを理解してくれる大人に相談しましょう

―親と良い関係を築くため、高校生にできることは?

大人モードの親子関係を築くには、自分のことは自分でやった上で、洗濯や食事の支度などの家族責任をしっかり果たすことも大切です。「大人として扱ってほしい」と思うのであれば、「もう大人として自立してやっていける」ということを実績で示すことも忘れないでくださいね。

菅原ますみ教授

 

すがわら・ますみ お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授。専門は発達心理学、発達精神病理学。国立精神・神経センター精神保健研究所 家族・地域研究室長などを歴任。