当初より強い線が刻めるようになったという金子楓佳さん

金子楓佳さん(東京・大東文化大学第一高校3年)は、「第35回成田山全国競書大会」(3月、実行委員会主催)で、出品作が内閣総理大臣賞に輝いた。同賞は、全国の小・中・高校生の書道作品12万2052点の中から1人に授与される最高賞だ。

内閣総理大臣賞作品(学校提供)

石刻む爽快感が心地いい

高校1年生の後半から、石に文字を刻む「篆刻(てんこく)」に取り組んでいる。篆刻は、筆で文字を半紙に書くのとは異なり、印刀(いんとう)を駆使して石に文字を刻む。刻み終えた篆刻を印鑑のように半紙に押印して作品となる。「作品を仕上げるまでに多くの工程があり大変。けど、それがやりがいの部分。ゴリゴリと石を刻む時の爽快感も心地いい」

金子さんが作った篆刻

内閣総理大臣賞受賞作(縦約135センチ×横約35センチ)は、清の時代の書家・趙之謙(ちょうしけん)の作品が題材だ。1年時から地道に石に刻んできた52顆(か) (個と同義)の、さまざまな大きさの篆刻が並ぶ。「印泥(いんでい)(朱肉と同義)を付けた篆刻印が1つでも文字ズレたり、半紙に上手く印字されなかったりしたら最初から全部やり直し。印を押す技術が求められます。完成までに5回、押し直しました」

また、鑑賞者の印象に残るような、大小ある篆刻の配列にもこだわった。

実際に判を押してもらった

文字の欠け、恐れてた

作品の一部拡大図

金子さんは、幼少から習字を始め、高校入学後からは書道部と学外の書道教室を掛け持ちながら、腕を磨いている。現在、作品を作るときは、中国・清の時代の書家・趙之謙(ちょうしけん)の篆刻作品をまとめた本の中から石に刻む文字を決める。

当初は「彫りすぎて文字が欠けるのを恐れてしまい、石に刻む文字の線が弱々しかった」という。顧問の佐藤敦子先生から「思い切って彫ってみては」と助言を受け、作品に向かう心持ちを変えた。「刻む際に思い切りの良さが加わったことで文字の線が強くなった。そして、何度も彫り続けて“手の感覚”が磨かれ、技術力が上がった」

5月の時点で85顆の篆刻を完成させた金子さんは、自作の篆刻に側款(そっかん)(石に篆刻を刻んだ後、石の左側面に書家の署名を刻むこと)を付ける、新たな挑戦を始めるという。「並行して、これまで続けてきた趙之謙の印影(印を押した後)の篆刻も100顆の完成を目指します」

今夏の「さが総文祭2019」書道部門でも金子さんの作品の展示が決定している。(文・写真 中田宗孝)