当たり前のことを当たり前に

8月4日、神奈川・小田原市総合文化体育館でのインターハイ決勝。育英(兵庫)を破り2連覇を決めた直後、選手全員が声を上げて泣いた。中学時代から米田敏郎監督(45)の教えを受ける米村丞史(3年)=熊本・九州学院中出身=は「監督から『ご苦労さん』と言われたとたんに、こみ上げてきました」と振り返った。

「キエーッ!」。部員が鋭い気合とともに竹刀を上段から振り下ろし、素早く前進する基本稽古は、戦国時代の戦をイメージさせるほどのすごみがあった。竹刀で打ち合う音は「ザーッ」と豪雨のように道場に響き続けた。

「ドン!」。米田監督が打ち鳴らす太鼓の音に、全員が一斉に動作を止め、監督に注目する。

「同じ動きをすることの意味を考えろ。その動作に何を求めているのか?」「大きく体を使え。一本、一本に生いのち命を込めた一撃を!」。自ら気合のこもった体さばきを部員に見せた。

「当たり前のことを当たり前にやる!」。監督が常日頃、口にする言葉が「常勝軍団」の文字とともに部旗に仕立てられ、道場の壁に張られている。

勝者の条件は「人の気持ちが分かる」こと

 

中学生を含む73人が、毎日3時間汗を流す。取材日、休憩後に防具付けが遅れた部員に「当たり前のことを~」と大声で注意が飛んだ。「日々の生活態度が剣道に表れる。簡単に思えることでも、きちっとやっていかないと大きなことはできない。いざという時、試合の時に自分が出る。人間性が高まれば技術も伴ってくる」(米田監督)

「妥協するな」「これでいいと思うな」「意識的に自分を動かせ」。監督から折々に発せられる言葉に、剣士たちは奮い立つ。 面を通して見る相手のわずかな動きから、心を察知し反応する。「人の気持ちが分かる」ことが、勝者の条件だ。

「1人が負けても誰かが取り返す。切磋琢磨し、優勝目指して一つ一つ大切に」と話す大将の山田凌平(3年)=北海道・鳥取中出身=は世界選手権日本代表候補。10月19日からの長崎国体で「不敗伝説」に挑む。

【TEAM DATA】
1911年創部。部員39人(3年生13人、2年生12人、1年生14人)。全国高校選抜大会、玉龍旗で6度ずつ、魁星旗5度、インターハイ4度優勝。全日本剣道選手権3度優勝の内村良一(警視庁)をはじめ、多くの選手、指導者を輩出。

【取材を終えて】
 集合写真を高い位置から撮るため、道場の隅にあった折り畳みいすに目をやると、部員2、3人がさっと動き、目の前にいすを設置してくれた。取材が終わり道場を出ると、先回りした部員が整列して玄関前で目を見てあいさつ。誰の指示がなくても、それらが「当たり前」のことのように自然に行われた。米田監督の言う「相手の心を察する力」「見えないものを見る力」は部員に浸透し、日常的な行動に表れていた。