秒単位のスケジュールで、濃密な稽古を続ける部員たち

中村学園女子(福岡)剣道部が今年、玉竜旗に続いて全国高校総体(インターハイ)を制した。過去、選抜大会を含め全国優勝を重ねながら、インターハイだけは一歩及ばなかったが、9度目の挑戦で念願の頂点に立った。岩城規彦監督の18年にわたる指導で、「心の剣道」がようやく花開いてきた。(文・写真 南隆洋)

練習は分刻み、自ら行動

「キエーッ」。部員たちが一斉に発する気合は、まるでソプラノの大合唱のように、道場に響きわたった。

インターハイが終わり、新チームに引き継がれて間もない9月半ば、新主将の山﨑里奈(2年)の指揮で稽古が始まった。

入念な準備体操の後、素振り、切り返し、打ち込み……。監督が不在でも、与えられた時間を惜しむように、気合とともに飛びはね、竹刀がしなる。

壁に「剣道部指針」。「私たちは自ら目標を持ち、自ら計画し、自ら行動し、自ら考え責任のとれる大人になります」(抄)。標語の精神が息づいていた。

振りでは「手の内の冴(さ)え」を意識し、「気剣体一致の1ミリも狂わない正確さ」を求める。面、小手、胴などの攻撃部位や、「最悪場面からの展開」といった場面想定を変え、分刻みで進む。部員はこの日、休憩2回を挟み、2時間半で54項目のメニューをこなした。

黙想で心を鎮める部員たち

日誌で自分を見つめ直す

道場は、なぎなた部と共用。使用できない月曜日は基礎体力養成、水曜日は休養かミーティングになる。

部員は監督と日誌を交換する一方で、「メンタルプラン」用紙に「半年後の自分」や「夢」を書き、「達成度」を自己チェックして、成長の道を探っていく。日誌は、食事や練習の内容、思いなどを毎日記す。

駐輪場でトレーニングをした9月12日、妹尾舞香(1年、玉竜旗とインターハイで副将)は日誌に書いた。「すごくきつかったですが、日本一になるためだと思ってやりました……」

中学時代は無名だった中野佳央里(3年)は、玉竜旗で優秀選手に選ばれるまでに成長。「意識が高まり、懸命になった」と振り返る。

山﨑は右膝靱帯(じんたい)切断で半年のリハビリをしながら仲間を支えてきた。「練習を本番の気持ちで」と部員をリードしてきた村田桃子(3年)から主将のバトンを引き継ぎ、「日本一を、みんなで守ります」と誓った。

心を鍛え、技を伸ばす「練習日誌」。部員は教えと思いを記して毎日、岩城監督へ提出する
道場に掲示された課題表。自己の課題に挑み、他人の課題突破を助ける

選手は一流の高校生たれ(岩城規彦監督)

 

成功は苦境の日に始まり、失敗は得意の時に原因がある。同じ失敗を繰り返さない。(日誌などで)自分を見つめ返そう。1日、1時間、1分をどのように生かすかが人生勝負の別れ道だ。

一流の競技者は一流の高校生であるべし。勉強をおろそかにするな。心を鍛え、高い志を持ち、自ら想像、計画、行動し、考え、責任をとれる大人になれ。

剣道即生活。強い決意と向上心で、障害に立ち向かい、諦めることなく前へ突き進む。努力の継続が、大成に結び付く。

今年の選手は迷いなく、全員が攻め、力以上のものが出せた。部の精神は「凛(りん)」。可能性を信じ「日本一」を目指し続ける。

 
玉竜旗に続き、インターハイでも優勝した中村学園女子剣道部

【TEAM DATA】
1961年創部。部員16人(1年生6人、2年生6人、3年生4人。うちマネジャー3人)。インターハイは2012年以降5年連続3位以上で今年初優勝。ほかの全国大会優勝は、選抜3回、玉竜旗5回。卒業生の大西ななみ(筑波大)が今年の全日本女子選手権で準優勝、津田佳菜子(兵庫県警)がベスト8。