[東京大学 教育学部 中村高康教授]
東京大学教育学部は、学校、行政、社会、文化、身体など、多様な角度から教育について探求する授業がそろっている。教員の専門分野は、哲学、歴史学、心理学、生理学など多彩で、卒業生の進路も、教員に限らず、民間企業、公務員、研究者を目指した大学院進学など幅広い。
学部に5つあるコースのうち、比較教育社会学コースに所属する中村高康教授の専門分野は「教育社会学」。どんな学問なのだろう。「社会学の理論や方法を使って、教育について理解しようとする学問です」と中村教授。社会学は、人と人の結びつきに注目し、「社会調査(アンケート調査)」や、現場に出向いて聞き取りや観察をする「フィールドワーク」などさまざまな方法を駆使して、社会を分析する。
試験や進路選択など
「選抜」を見れば社会が分かる
教育社会学は「教育について俯瞰(ふかん)するのが特徴」だと中村教授は言う。「すべての人が教育を受け、また親になれば教育をする側になります。そのため、しばしば自分の体験だけに基づいた教育論を語ってしまいます」。例えば、大学を卒業した人は、「みんなが大学に進学している」と思い込んで、教育を論じがちだが、実際には日本の大学進学率は50%台だ。「『俯瞰』して見ないと、事実をふまえない危うい議論になりかねません」
教育社会学の中でも、中村教授が力を入れて研究してきたのが「教育と選抜」。試験や進路選択などがテーマだ。なぜ、このテーマに注目したのだろうか。「近代社会の特徴は、個人の能力や業績が重視されることです。日本も江戸時代までは身分制社会でしたが、明治維新以降は能力によって社会的地位が決まるようになりました」。個人にとっても社会にとっても良い仕組みに思えるが、実は、どのような能力を評価するか、どんな選抜の仕組みを採用するかは国や時代によって異なる。「選抜に注目することで、社会の特徴を明らかにしようとしてきました」
具体的には、高校生の進路意識が入学から卒業まででどう変化するかを調査に基づき分析したり、大学の推薦入試制度の仕組みや機能を解明しようとしてきた。
良い学歴は結婚に有利?
日韓の高校生を比べると…
研究方法の一つが国際比較。日本と韓国の中高生を比較した研究も手掛けた。両国とも「学歴社会」と思われているが、生徒の意識には違いがある。例えば、高い学歴を得ることが良い結婚相手を得る上で有利と考える日本の高校生は男子31%、女子30%だが、韓国の高校生では男子75%、女子83%に上る。一方、日本の高校生は韓国よりも、「やりがいある仕事」を得る上で有利と考える人が多い。研究では、韓国との比較を通じ、日本の特徴を明らかにした。
中村教授が学部で担当している授業が「教育社会学調査実習」(「先輩に聞く」参照)。「社会調査の方法と技術を学ぶことを通じて、『常識』とされていることを疑うなど、世の中を見る力を鍛えてもらいます」
教育社会学に興味を持った高校生にお薦めの本が、中村教授が10代に向けて書いた『学歴・競争・人生』(共著、日本図書センター)。「受験競争がなくならない理由」といったテーマが、研究成果に基づき分かりやすく解説されている。