高校生記者が船橋さんに、留学について気になることを次々に質問

高校時代から世界を知ってほしい──。国と民間企業などが協力して高校生の留学を後押しするキャンペーン「トビタテ!留学JAPAN 高校生コース」が今年から始まった。大学に入ってからでは遅いの? どの国に留学すればよいの? 高校生記者4人が文部科学省を訪ね、プロジェクトディレクターの船橋力さんに聞いた。(聞き手・中川奈津子、金子夏望、佐々木舞音、前田黎)

留学経験が進路選択に役立つ

──なぜ、国や企業が高校生に留学を勧めているのですか。
 
船橋 今、世界では、ビジネスも環境問題などの課題解決も、国を越えて取り組む「グローバル化」が進んでいます。日本の企業も海外進出を加速させており、グローバルな環境の中で活躍できる人材を必要としています。
 
 しかし、日本から海外に留学する大学生・高校生は減っています。このままでは日本が世界から取り残されてしまうという危機感が、国にも産業界にもあり、始めたのが「トビタテ!留学JAPAN」という留学促進キャンペーンです。
 
  高校生に留学を勧めるのは、早い段階で視野を広げてほしいからです。高校生は大人よりも柔軟で、何でもすぐに吸収できます。海外を見て「自分は何を勉強し たいんだろう。どんな大人になりたいんだろう」と自分を見つめ直して進路を選ぶことで、その先の人生をより豊かにできるでしょう。

留学先で「苦手なこと」もしよう

──高校生に特に薦めたい国や地域はありますか。
 
船橋 1つの国への留学より、短期間でも何カ国かに行く方が、より客観的に国や地域ごとの違いが見えます。僕は、ブラジルとアルゼンチンで育ちましたが、隣り合う国でも、人々の気質が全く違うのです。
 
 特定のお薦めの国はありませんが、いろんな国から来た人がいる所がいいですね。例えば、恋愛の話でも、家族のことでもよいから、多くの国の人と会話をすることで、国によって違う部分、似た部分が分かります。急激に発展している国と、日本のように成熟した国の両方を見るのもよいかもしれません。
 
──どんな高校生に、留学してほしいですか。
 
船橋 数週間や1カ月程度の海外体験を含めると、全員が行くべきです。海外に一度出ることで、自分の良さと足りない部分、そして日本の良さが分かります。1年間以上の長期留学は、目的意識を持った人と好奇心がある人に行ってほしい。好奇心を持った人が海外でいろいろなものに触れることで、目標が芽生えます。
 
──留学中にどんなことをすればよいですか。
 
船橋 7割は自分の目的に沿うことを、残りの3割は、わざと「目的と違うこと」「自分が苦手だと思うこと」をやりましょう。そして、いろんな国、世代の人と話し、多様な価値観に触れることです。それにより、自分の幅を広げられます。日本人の良さは「聴く力」
 
──英語への苦手意識があったり、留学への不安があったりする人に伝えたいことは。
 
 今の世界の共通語は、英語ではなくBroken English(片言の英語)です。また、うまく話せることだけが価値ではありません。
 
 実は僕も、かつては国際会議でガンガン話す欧米や中国、インドの人に押されて、発言できずにつらい思いをしました。ところが、参加者の話をしっかり聞いて、議論を整理したところ「君のリスニング力はすごい」と評価されました。これこそが日本人の長所で、自分もその力を持っているのだと実感しました。
 
 「世界はグローバル化しているから、早めに海外を見ておかないとまずいよ」と高校生には伝えたい。世界が大きく動いていて、面白い人がたくさんいることを知って僕はすごくワクワクしました。この気持ちを皆さんにも早く味わってほしいですね。
 (構成・堤紘子、写真・幡原裕治)

ふなばし・ちから 1970年生まれ。幼少期から10代にかけてブラジル、アルゼンチンで過ごす。上智大学を経て伊藤忠商事に入社。インドネシアでの地下鉄推進プロジェクトなどを手掛ける。2000年、企業と学校向けに参加型・体験型教育を提供する企業「ウィル・シード」を設立。09年、世界経済フォーラムのYoung Global Leaderに選出。13年にトビタテ!留学JAPANのプロジェクトディレクターに就任。