米国政府は2月1日、ロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約からの離脱を発表、2日にロシア側に正式に通告した。同条約は冷戦終結を後押しし「核軍縮の金字塔」とも称されたもので、今回の米政府の決定は国際社会が目指す「核なき世界」に逆行する動きだ。国際的な軍備管理体制が、崩壊の危機にひんしている。

中国への懸念も背景

条約は正式通告の6カ月後に失効する。ポンペオ米国務長官はロシアの条約違反を批判し「ロシアが根本的に態度を変えることを望む」と述べた。条約違反をめぐる対立に加え、中国が条約に縛られずミサイル開発を進めてきたことへの懸念が背景にある。

ロシアが対抗措置

これに対し、ロシアのプーチン大統領は「全く同等の対抗策を取る」と表明。米国に対抗して、同条約が禁じる新型の極超音速ミサイルを開発すると語った。条約失効で日本など近隣諸国に米国のミサイルが配備されることを警戒し、核兵器の先制使用を認めるべきだとの主張も出始め、新たな軍拡競争の恐れが高まった。

 

米ロとも相手の違反主張

米国はロシアが配備する新型の地上発射型巡航ミサイル「9M729」が条約に違反すると批判し、トランプ大統領は昨年「米国だけが条約を守るつもりはない」と表明。ロシア側は一貫して条約違反を否定、「米国が欧州に配備したミサイル防衛(MD)システムは攻撃に転用でき、条約に違反したのは米国だ」としていた。

次の焦点は2021年に期限を迎える新戦略兵器削減条約(新START)の延長交渉だが、米政府高官は延長の是非を「検討中」としている。ロシア高官も「INF条約と同じ運命をたどる恐れがある」と、米側の一方的離脱に警戒感を示している。

【memo】INF廃棄条約 1987年12月、ゴルバチョフ・ソ連共産党書記長とレーガン米大統領が調印、88年6月発効。米ソの地上配備の中・短距離核ミサイル(射程500~5500キロ)を発効から3年以内に全廃すると定め、特定分野の核戦力の全廃を盛り込んだ史上初の条約。91年までに両国で計2692基を破棄、超大国の核軍縮に道を開いた。