今夏の全国高校総体(インターハイ)陸上男子4×100㍍リレーの頂点に立った滝川第二(兵庫)。2010 年に同種目を制し、昨年は4×400㍍リレー優勝。変則的だが、陸上男子のリレー種目で全国3連覇の偉業を達成した。リレーで成長する精鋭チームを訪ねた。( 文・写真 中尾義理)
秋晴れの滝川第二グラウンド。陸上競技部の夏の健闘をたたえる垂れ幕の下、練習が始まった。ウオーミングアップと動きづくり(もも上げ走やハードルまたぎなど)をスムーズかつ入念に約1時間かけて行う。本練習に突入する準備が整うと、原田隆司監督(43)が練習メニューを伝え、短距離、ハードル、跳躍などパート別にグラウンドに散った。
男子リレー全国3連覇チームだが、練習の量や強度に強さの秘密が隠されているわけではない。原田監督は「特別なことはしていませんよ」と話す。特別なことをあえて挙げると、「バトン練習をやらない」ことだろうか。
かつてはバトン練習に熱心だった。しかし結果がついてこない。原田監督はバトン練習に執着せず、代わりに、仲間を信じる力を育てることに力を注いだ。
メンバーは話し合いを重ねて理想のリレー像を描き、スピード練習では肩をぶつけるように走ってきた。そうすることでお互いのスピード感や走りの質がインプットされ、バトンを受け渡しするタイミングを微調整できるあうんの呼吸が生まれた。
そして10年に全国初V。今夏のインターハイで3走を担った新主将の段林翔希(2年)=兵庫・鈴蘭台中出身=は「滝川第二のリレーは信頼関係が強み。ここ一番でバトンがバッチリ合います」と胸を張る。
1年時からリレーメンバーに入り、リレー3連覇に貢献した魚里勇介(3年)=同・青雲中出身=は「このチームで負けるというイメージが全く湧いてきませんでした」と言うほど、メンバーを信頼している。
「仲間を信じる力」ともう一つ、競技力の成長を支えているのが「仲間を思いやる心」だ。
滝川第二では、練習用具やドリンクの準備と片付け、グラウンド整備、大会時の荷物運びなどを下級生の仕事と決め付けず、全学年で行う。
お互いに支え合う時間は、会話や感謝の気持ちを生む。先輩と後輩、生徒と先生、みんなが素直にものを言える環境で結束を固めてきた。
「3年間一緒に陸上ができて幸せだと思わせてくれる生徒ばかり。私もたくさん勉強させてもらっています」と原田監督。インターハイで110㍍障害5位、400㍍障害2位、リレー優勝(1走)と活躍した間処将太(3年)=同・平岡南中出身=は「先生の指導には、高校卒業後も意欲的な人間であれ、という思いが込められているように感じます」と話す。
次に狙うのは4×100㍍リレーの高校記録40秒02の更新だ。9月の近畿選手権では高校歴代2位の40秒17をマーク。高校新記録に迫っている。日本選手権リレー(10月26日~ 28日)など、残るチャンスに総力で挑む。
強さのポイント
仲間を信じる・思いやる
きついときこそ笑顔
負けをイメージしない
切磋琢磨を楽しむ
卒業後につながる指導
- 【部活データ】創部/ 1984 年部員/男子28 人(3年生8人、2年生10 人、1年生10 人)、女子7人(2年生2人、1年生5人)練習時間/ 16 時~ 19 時(土曜9時~12 時)、朝練習は任意指導者/原田隆司監督(43)、磯貝節雄コーチ(63)
- 【主な実績】 2010 年インターハイ=男子八種競技優勝、男子4× 100㍍リレー優勝、男子総合6位。11 年インターハイ=男子4× 400㍍リレー優勝、男子総合4位。12 年インターハイ=男子400㍍障害2位、男子4× 100㍍リレー優勝、男子総合2位モットー/ Catch The Crown. Let’sGrow Ourselves.
取材を終えて
近年「リレーの滝二」として地位を築いた滝川第二。バトン練習をしないとは意外だったが、強い信頼関係でカバーできるのだ。「仲間と切磋琢磨して成長するから、陸上競技は団体競技」。そんな意識がチームに浸透していることを強く感じた。