「経済学部」「経営学部」「商学部」、どれも似たような印象を持ってしまいがちだが、学ぶ内容はがらりと変わる。興味があっても、どの学部に進めば自分のやりたい学びができるのだろうか。それぞれの学部の特色や学ぶ内容を、一橋大学経済学部の冨浦英一教授に解説してもらった。(中田宗孝)

 

経済学は人の行動を分析

――経済学とはどんな学問?

経済学は、お金もうけのための勉強をすると思われがちですが、そうではありません。人間の合理的な行動を、理詰めで考えながら分析する学問です。

分析の対象は、高校の政治経済の教科書のイメージとは違って、国の金融政策や外交問題から、個人の結婚や子育てなど幅広いのが特徴。高校生に身近な例だと「進路選択でどの学部を選ぶのか」ということも、経済学の研究対象になります。

経営・商は実践を重視

――経営学との違いは?

経営学は「どうすれば企業経営がうまくいくか」を考える学問という性格が強いと思います。経営学部や商学部では、会計や簿記、マーケティングなどの実践的な科目が幅広く開講されています。企業の戦略や組織について、心理学や工学、経済学などさまざまな学問の手法も使って研究します。最近ではNPOなどの企業以外の組織運営の分析も含まれます。

経営学部や商学部では、実際のビジネスの場を例にした実践や応用がより重視されます。簿記、公認会計士、税理士といった資格取得のための勉強を積極的に支援しているのも、経営学部や商学部の特色でしょう。ただ、私は経済学が専門なので、商学や経営学の先生にも聞いて比較した方が公平でしょう。

「積み上げ式」で学ぶ

――経済学の学び方の特徴は?

経済学の勉強は「積み上げ式」です。初めに経済学の基礎や入門を学んでから、ミクロ経済(個人の消費活動や企業の生産活動)やマクロ経済(日本経済など国レベルの景気)の理論を身につけます。こうした経済学の考え方、分析の仕方を理解した上で、学生それぞれが関心のある具体的な専門分野、例えば金融論や国際経済学などを選び、探究していきます。

理論を検証するために、データを分析する統計学の勉強もします。こうしたコツコツと積み上げる学習が大事ですから、入学してすぐに自分が関心のある分野を学ぶというわけにはいきません。積み上げには時間がかかりますが、こうして身に付けた発想法や見方は、社会人になっても経済問題の理解に役立ちます。

また、就職してからこれだけ時間をかけて経済学を基礎から勉強するのは難しいでしょう。

高校の数学は必要

――どの学部に向いているか、どう調べればよいですか?

大学のウェブサイトのほかに、個人のウェブサイトを開設する先生が大勢います。研究内容や講義のテーマを調べてみて、興味が湧くかを見てみましょう。本を出版している先生もいるので、読んでみるとよいでしょう。

――高校の授業の中で、大学での学びに直結する科目は?

経済学の理論には、数学的な思考力や数式を使います。「数式を見るのも嫌い」という人は入学してから苦労してしまうでしょう。高校で身につけた数学は、大学の講義で活用する機会が必ずあります。

――高校生のうちに経済を勉強しておくべきでしょうか。

経済の専門的な知識は、大学に入学してから学べばよいです。日々のさまざまなニュースをチェックし、社会全体の出来事に関心を持っておくことが役立ちます。例えば、爆発的にヒットした新商品の話題に対して、「なぜ売れているんだろう?」とか、そうなった原因や理由を考える癖をつけておくことは大切だと思います。

 
冨浦英一教授(一橋大学経済学部)
とみうら・えいいち 戸山高校(東京)卒業。東京大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。神戸大学、横浜国立大学での教員を経て、2015年から現職。著書『アウトソーシングの国際経済学』(日本評論社)で、日経・経済図書文化賞およびエコノミスト賞。