最近、ニュースなどで、セクハラやパワハラなど「ハラスメント(嫌がらせ)」に関する言葉をよく聞く。高校生がハラスメントに遭わないためには、どうしたらいいのだろう。弁護士の長瀬恵利子さんに聞いた。 (山口佳子)

 
弁護士 長瀬恵利子さん
ながせ・えりこ 東京弁護士会所属。都内の中学・高校で、ハラスメントに関する講演を行う。
 

被害を言い出しにくい

―そもそもハラスメントとは?

ハラスメントの定義は「嫌がらせ」「人を不快にさせること」です。いじめや虐待との線引きは難しい場合もありますが、上下関係などがある閉鎖的な人間関係の中で生じる「嫌がらせ」と考えるといいでしょう。セクハラは性的な言動で相手を傷つける、パワハラは上下関係の優位性を利用して苦痛を与える、モラハラは言葉や態度での嫌がらせを指します。

―高校生にも関係ある?

上司と部下のいるアルバイト先、先輩後輩のいる部活動、恋人や友人といったあらゆる人間関係の中でさまざまなハラスメントは起こり得ます。上下関係や性に関する価値観が衝突する集団生活の中では、ハラスメントが起きやすいのです。

学校で係や委員会を決めるとき、「これは女子が向いている」「男子だからこれをやりなさい」ということはありませんか? こうした無意識の共通認識が、例えば「男らしくない」「女らしくない」と非難するようなハラスメントを生む土壌となります。

―自分では気付かずに、すぐそばで起きている可能性があるということですね。

職場や教室、家族といった人間関係の中で、そこにいる人たちの多くが上下関係や性別役割分担を許容している場合、ハラスメントで嫌な思いをしても言い出しにくい雰囲気があると思います。被害者自身が嫌な思いを「仕方がない」と諦めてしまう可能性もありますし、加害者はさらに、自分が相手に不快な思いをさせているという自覚がない場合も多いです。

信頼できる大人を探して

―ハラスメントを受けてしまったら、どうすれば?

信頼できる大人に相談することが大切です。保護者や先生など、身近な大人からのハラスメントを感じている場合には、各地の弁護士会の相談窓口(下記参照)などを利用するのもよいでしょう。例えば東京弁護士会が行っている中高生向けの相談窓口は、費用もかからず、一人一人のケースに沿って相談に応じると思います。

―友人が被害を受けていると気付いたとき、どうすれば?

一番大切なのは、友達を決して否定しないこと。「相手にはっきり嫌と言えばいいのに」などのアドバイスは、励まそうと思っていたとしても逆効果です。嫌だと言うのが難しいからハラスメントは起きるのですから。話を聞けるのなら、友達の言葉にじっくり耳を傾けましょう。

自分自身と加害者の関係性にもよりますが、可能なら加害者に対して「(被害者が)嫌がっているよ」と伝えてあげることが効果的です。そしてやはり、信頼できる大人を探して相談してほしいです。

正しい知識を持とう

―逆に、高校生がしてしまいがちなハラスメントは?

閉鎖された特定の人間関係の中にいると、自分が加害者になっていても気付かない場合があります。例えば、部活動の先輩として後輩に無理なことを強いてはいませんか?「自分も後輩の時は同じだったから」と続けると、パワハラの加害者になりかねません。自分が後輩だった時に「おかしい」と感じたことは、繰り返さないことが大切です。

また、恋人同士の間でも「男だからデート代は持つべき」「女なのだから俺の言うことを聞け」など、性別役割分担にとらわれ過ぎていると、男女問わず、モラハラの加害者になる可能性もあります。

親しい友人に対してなら何をしてもよいと思い込み、嫌がる相手の身体を触る、性的な画像や動画を見せるなどはセクハラとなります。

―被害者にも加害者にもならないためにはどうしたらいい?

まずは、ハラスメントとはどういうことか、どういう場面で起きやすいかを知ることが大切です。正しい知識を持つことが、ハラスメントを防ぐことに役立ちます。

ハラスメントとは「嫌がらせ」

 
セクハラ(セクシュアルハラスメント):相手の意に反して行われる性的な言動のこと。
パワハラ(パワーハラスメント):上下関係など、人間関係の優位性を利用して精神的・身体的な苦痛を与えること
 
モラハラ(モラルハラスメント):言葉や態度によって行われる精神的な暴力、嫌がらせのこと。
 
 

ハラスメント・チェックシート

* ひとつでも「YES」と思ったら、加害者にも被害者にもなりやすい。

□ 男は男らしく、女は女らしくすべきだ。
□ 先生や先輩は目上の人なので、少々無理を言われても、従わなくてはいけない。
□ 多少のいやらしい冗談は言ってもいいし、もし言われても上手に聞き流すべきだ。
□ いやらしい気持ちさえなければ、相手の体形や容姿についていろいろ言っても構わない。
□ 自分の意見をはっきり言う後輩はむかつく。
□ むかつく先輩がいた場合、後輩全員で無視しても構わない。
□ 自分は、セクハラにもパワハラにも無関係だ。

 

電話相談窓口の一例(東京弁護士会)

子どもの人権110番
相談無料、誰でも相談可 電話03-3503-0110
月~金曜日=午後1時半~4時半、午後5時~8時 土曜日=午後1時~4時

女性のための電話相談「ほほえみほっとらいん」
相談無料、女性なら誰でも相談可
電話03-3581-2403 月曜日午後1時~4時
女性弁護士が対応

※ 各都道府県の弁護士会や自治体が子どものための電話相談を受け付けている。