私たち人間は、のどが渇けば水を飲み、寒ければ厚着ができる。では、自ら行動できない植物は、乾燥や寒さにどのように耐えているのだろう? その仕組みを解明した、植物分子生理学を研究する篠崎和子教授(東京大学大学院農学生命科学研究科)に農学研究の魅力を聞いた。 (文・写真 山口佳子)

しのざき・かずこ 1954年生まれ。群馬県出身。日本女子大学卒。東京工業大学大学院博士課程修了後、名古屋大学遺伝子実験施設などを経て、米・ロックフェラー大学に留学。帰国後、国立研究開発法人国際農林水産業研究センターなどを経て現職。

真実を解明する学問

――最初から、植物の遺伝子を研究されていたのですか?

私が大学に進んだ1970年代後半、高等生物の遺伝子研究は技術的にまだできませんでした。でも最先端の研究をしたくて、最初はウイルスの遺伝子研究から始めたんです。私が植物の遺伝子に取り組むようになったのは、大学院を修了して大学で研究するようになってからです。

――農学の魅力は?

サイエンスは、宇宙や生物など自然の仕組みを解明していく学問で「真実は一つ」しかありません。未知のことを解き明かしたい、真実を知りたいと追究していく過程がわくわくと楽しく、真実が分かった時は本当にうれしいですね。

サイエンスの中でも農学は特に、解明した仕組みを世の中に役立てることができます。私は遺伝子の仕組みを解明する基礎研究をしていますが、私の研究成果は品種改良などの応用研究にも生かされています。

私が発見した基礎的な発見が実際に役立つまでには、20~30年かかることもあります。生きているうちに見られないかもしれない。でも、役に立つと思うだけでもわくわくします。

先を越されてもくじけず

――挫折したことはありますか?

たくさんありますよ。長年かけて研究してきたものが、他の研究者に先を越されて発表されたことも……。論文は世界で1番目じゃなきゃ意味がないんです。

――そんな時もくじけなかった?

私は研究室の仲間や家族、周りの人にとても恵まれてきたと思います。

それに、サイエンスの世界では、突き止めた真実の先にもまだ分からないことが残っています。「他の研究者に先を越された先にある真実を見てみたい」と思うんです。

こうやって真実を追究していって、科学者はいつか、全ての真実にたどりつくことができるのかしらね。それとも、分からないという結果にたどりつくのかもしれません。そんな風に考えてみるのもわくわくしますよね。

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