お年寄りと共同生活 力もらう

剣道部の男子部員寮は高齢者介護施設の2階にある。部員はお年寄りと共に生活を送りながら「強く優しい剣士」に成長している。7月の玉竜旗剣道大会では初優勝。お年寄りと喜びを分かち合った。( 文・写真 南隆洋)

学校から約3・5㌔離れた住宅地にあるグループハウス「およりの郷」。認知症や体が不自由な46歳から83歳の10人と、1〜 3年生の部員10人が1階と2階でそれぞれ生活している。

市内3カ所で高齢者施設を運営する部員の父宮㟢清志さん(56)が2005年4月、渡邉孝経総監督(52)に提供を申し出た。当時、渡邉一家は遠隔地からの部員の世話をしており、「大変なのを見かねて、力になればと思い提案しました」と宮㟢さんは説明する。

施設では、朝夕の食事の提供を受けながら、食器は自分で洗い、風呂や廊下などの掃除を分担する。部員たちは、午前6時に起床。毎日7時半からの朝の補習授業に間に合うように自転車で出発。練習を終え、午後7時半から夕食をとる生活を送っている。

 

今年7月29日、玉竜旗決勝の日。施設で暮らすお年寄りたちはテレビの前にかじりついた。大町清さん(72)は「ハラハラ、ドキドキ。やった! 日本一の子と一緒に住んでいるのは、わしらの誇りです」と、その時の思いを語る。昔、剣道をしていた森繁樹さん(81)は「若いころを思い出した」と言う。

夜間に庭で素振りの練習をしたり、食堂で勉強したりする部員たちの姿に「私たちも見習わんといかん。元気をもらえる」と佐藤澄雄さん(63)は目を細める。

大将として優勝の逆胴を決めた渡邊賢人(3年)=長崎・大村中出身=は寮長だ。「気持ちが落ち込んだとき、声を掛けられ、話すと安らぎを感じる。玉竜旗の前は、『試合やね。頑張りね』と言われて、やる気が出た」と振り返る。

「(寮生活を始め)礼儀作法に注意するようになりました。トイレのスリッパもきちんとそろえます」と話すのは牧島凜太郎(1年)=同・東長崎中出身=だ。主将の藤野麗太(3年)=福岡・香椎一中出身=は「洗濯物を入れて畳んでくれたおばあちゃんに感謝しています」と話す。

渡邉総監督は「お世話になっているという気持ちを忘れてはならない。お年寄りとの生活で他人の気持ちを察し、気が利くようになり、人間的にも成長した。精神的安定感が、自然に試合の結果につながっていく」と話した。

チームデータ
現在、部員は男子23 人、女子18 人。男子は全国規模の大会優勝は今回で2 度目(全国初優勝は2004年魁星旗大会)。準優勝1 回、3 位10 回。女子は09 年に総体、魁星旗、玉竜旗の全国3大会で優勝。