大阪・大阪桐蔭高校吹奏楽部は、10月の第64回全日本吹奏楽コンクール(全日本吹奏楽連盟など主催)金賞に続き、11月には第22回日本管楽合奏コンテスト(日本音楽教育文化振興会主催)大編成の部で最優秀グランプリ賞を受賞。「魅せる・聴かせる・伝える」をモットーに観客を魅了するハーモニーは、年間80回を超える公演で培われる。
(文・写真 白井邦彦)
移動中の大合唱で心一つに
全日本吹奏楽コンクールで金賞受賞のアナウンスを聞いた瞬間、部長の吉田侑さん(3年)は涙をこらえられなかった。「(入部してから)今まで逃していた金賞を絶対に取りたかった。技術不足や部活への姿勢などから、各自が胸の内を口に出して衝突することもありました。やっと一つになれたのは、本番当日のバスでの移動中でした」
バスの中ではコンクールなどの演目を歌うのが恒例だ。今年は、吹奏楽部顧問で総監督の梅田隆司先生が珍しく自ら指揮棒を振り、「最高の雰囲気で会場入りできた」と吉田さんは振り返る。音楽で大切なことは演奏者の心を通わせること。それをあらためて感じた瞬間でもあった。
部は先輩・後輩の垣根をつくらない方針で、日頃は和気あいあいとした雰囲気。吉田さんは「コンクールのメンバーを決める時に、この関係性が良い方向に向かう」と言う。「上級生がメンバーから外れることもありますが、学年にかかわらず選抜メンバーを全力で支えます」
公演本番が成長できる場
テスト期間と正月以外は休みがなく、ほとんどの週末はどこかで公演する。今年は漫画家・水木しげるさんの追悼コンサートで鳥取に行ったり、地元のプロ野球チームの開幕戦で演奏したり、年間80回ほどの本番をこなす。加えて、野球部やラグビー部などの応援にも駆けつける。
梅田先生は「練習以上に『本番』が最も成長できる場だと思っています。とにかく人前で演奏する機会を多くしています」と話す。
入学当初から人前で演奏
人数が制限されるコンクールなど以外は、基本的に全員で心を合わせて演奏するのが方針。1年生の4月から本番の経験を積むことで腕が磨かれる。
演奏のまとめ役であるコンサートミストレスの堀田真衣さん(3年)は「最初は世代の違う人たちの前で演奏するたびに緊張していましたが、そのおかげで度胸がついた。大きな舞台でも普段通りの演奏ができるようになった」と話す。習うより慣れろ。試練の本番が一人一人を強くする秘訣(ひけつ)だ。
取材日の練習の流れ
部活データ 2005年創部。部員180人(3年生59人、2年生71人、1年生50人)。06年に全日本吹奏楽コンクールに初出場し、以来9回出場のうち金賞4回。08年に全日本マーチングコンテストに初出場し、計5回出場のうち4度の金賞。