美しい衣装で踊るバレエ。鈴木千聖さん(東京・玉川聖学院高等部2年)は国内最高権威といわれるNBA全国バレエコンクール(1月3~8日)で、文部科学大臣賞と高校生女子の部1位を受賞した。将来の夢は、日本のバレエ団で主役を踊るプリンシパルになることだという。(文・山口佳子、写真・高松英昭)
バレエのため中高一貫校に
鈴木さんがバレエを始めたのは3歳の時。母が勤める保育園についていき、バレエ教室の様子を傍らで見ていた。誰に教わることもなくレッスンをまねていた鈴木さんを見た先生から「発表会に出てみては」と勧められたのがきっかけだ。
小学2年生のころには本格的なレッスンを始め、小4で初めてコンクールに挑戦した。この頃にはすでに、将来はバレリーナになりたいと思っていた。高校受験をすると大切な時期にコンクールに出られなくなると考え、中高一貫校に進学した。
高校2年生になった今、週6日、1日3~5時間のレッスンに励む。平日は高校での授業を終え、いったん帰宅し、夕食後にバレエスタジオに向かう。体の柔軟性と美しい姿勢を保つため、毎日最低20分程度のストレッチと腹筋のトレーニングは欠かさない。
バレエの「おとぎ話のような世界」が好き
クラシックバレエが表現する「おとぎ話のような世界」が好きという。「言葉を使わずに、表情と体の使い方で自分を表現できるところも魅力です」
今回のコンクールで踊ったドン・キホーテのキトリという町娘の役は、強くて明るいキャラクターで自分の中にあるものを引き出せたように思う。ただ元気な中にある大人っぽさの表現や扇子を上手に使う技術など自分に足りなかった部分もあったので、今後のコンクールを目標に、レッスンを重ねたいと思っている。
スランプ抜け出た瞬間「ふと気が楽に」
メンタルは強い方ではない。中学生の頃、練習でうまくできていた演技を本番で失敗し、しばらくスランプから抜け出せないことがあった。失敗が続いていたあるコンクールの本番前、いつも優しかった先生に「いいかげんにしなさい!」と厳しく叱られ、我に返った。ふと気が楽になり、自分の納得できる演技ができた。今も自信を持つのは苦手だが、練習でできたことを本番で結果を出していく積み重ねが、小さな自信につながっていくことを最近少しずつ実感している。
尊敬するのは羽生結弦選手
尊敬する人はフィギュアスケートの羽生結弦さんだ。練習でやってきたことを本番で出し切れるメンタルの強さも、練習量の多さも、自分に自信をもっているところも、すごいと思う。
羽生さんの「努力はウソをつく。でも無駄にはならない」という言葉も好きだ。少し前までは、「努力はウソをつかない」という言葉を信じて練習していたが、この言葉を聞いて、あぁそうだなと納得した。いくら練習してもうまくいかないこともあるし、練習でできても100%結果につながるわけでもない。それでも今の努力は、きっといつか自分のためになると信じてレッスンに臨めるようになった。
将来の夢は、バレエ団で主役を踊るプリンシパルになること。「そのためにもより多くの審査員の目に留まるような演技をして、バレエ団から声をかけてもらえるようになりたい」と静かな闘志を燃やす。
Q&A
Q コンクール前にリラックスして臨むには?
リハーサル室には遅くとも2~3時間前には入ります。自分が苦手な部分を納得できるまで確認してから、本番に臨みます。
Q コンクールに必ず持っていくものはありますか?
ウサギのぬいぐるみです。中学2、3年生の頃、同じバレエ教室の姉妹校に通う友人からもらいました。本番に臨む直前に、リハーサル室でぎゅっと握りしめます。
Q バレエ以外には、普段なにをしていますか?
レッスンが休みの水曜日は、高校の同級生とおいしいものを食べに行ったりします。レッスンがある日は、バレエ以外のことをする時間はあまりありません。
Q 学校のお友だちは、鈴木さんのバレエを応援してくれていますか?
はい。仲の良い友だちには、今回のコンクールで1位になったことをすぐにツイッターで報告しました。おめでとうって返信がきました。発表会などにも来てくれます。
Q 高校時代、心に残っている経験は?
昨年の春休み、1週間だけですがドイツのバレエ学校に留学しました。私は日本でも背の高い方ではないのですが、海外の大きい人たちの中でレッスンをすることで、背中を広げて大きく踊ることを常に意識するようになりました。
Q 好きな芸能人はいますか?
高杉真宙さん。映画「PとJK」で演じた不良役がとても上手で、いろいろな役のできる演技の上手な俳優さんだなと思いました。
Q 得意な教科、好きな教科はありますか?
得意とは言えないのですが、好きな教科は国語です。
Q これからの具体的な進路は?
最終的には日本のバレエ団に入りたいと考えています。そのためには海外留学や大学進学が必須というわけではないので、まだ具体的には何も決めていません。
- 【プロフィール】
- すずき・ちさと 鈴木直敏・恵子バレエスクール所属。第21回NBA全国バレエコンクール 高校生部門第1位(‘18)、ジャパンダンスコンペティション ジュニアCの部第1位(2017)など。牧阿佐美バレエ団の公演に出演、「くるみ割り人形」クララ役(中2)、中国の踊り(高2)などを踊る。