幼いころから抱いていたパイロットになる夢を、17歳で実現させた安里駿佑さん(沖縄・沖縄カトリック高校3年)。昨年、高2のときに単身渡米して、自家用パイロット免許試験に見事合格。高校生パイロットになるまでの経緯を語ってもらった。(文・中田宗孝、写真・学校提供)

渡米しパイロットの免許を取得

昨年11月、単身で渡った米国の地で「自家用パイロット免許(PPL/Private Pilot License)」取得のための最終試験に挑んだ。セスナ(小型飛行機)に同乗する試験官が、一定時間飛行する安里さんのフライト技術を細かくチェックしていく。

安里さん(右)とパイロット免許の試験官。連続離着陸訓練「タッチ・アンド・ゴー」を含む総離着陸数146回、総飛行時間74時間に及ぶ米国での実地訓練を経て、高2の17歳でパイロットの夢を実現した

飛行中、試験官に「そこまで」と告げられたら不合格。着陸してエンジン停止まで、試験官の制止がなければ合格を意味する。「ものすごく緊張しました。ただ、幸運にもこの日は天気に恵まれて風も落ち着いたんです」と、当時の心持ちを振り返る。最終試験のフライトを終えた安里さんが機体のエンジンを止めた。その瞬間、17歳の高校生パイロットが誕生した。

子どものころから飛行機に夢中

幼少期から飛行機が好き。那覇空港や嘉手納基地に離着陸する機体を眺めては、自分が操縦する姿に思いを馳せた。「飛行機に関する知識がどんどん増えていって、自然とパイロットを夢見るようになりました」

自宅リビングに置かれる無線機。飛行機の撮影も趣味で、好きな機体はANAの“ボーイング737-500”。「ずんぐりむっくりな容姿がかわいくて。同じ飛行機好きの父とも好みが一緒なんです(笑)」

小学生のときに「無線免許」を取得。機長と沖縄周辺の空域を管轄する神戸管制部との英語で交わされる航空無線に耳を傾け、「自分がコックピットの中にいるような気分が味わえて、今も楽しんでいます」

最年少で免許を取りたい

「目指すからには17歳でパイロット免許を取る!」。免許取得が可能となる最年少を目標に掲げた。

米国での免許取得を選択したのは、国内よりも費用を安く抑えられるためだ。資金の一部はクラウドファンディングで募った。「パイロットになるのを断念した方をはじめ、多くの人たちが夢を追う自分を応援してくれました」

渡米する約1年前から国内でもパイロットになるための勉強に励んだ。高2に進級すると県内の航空学校に通いながら、米国の教官によるオンライン授業も受講。「滞在日数を短くできるように、座学はできるだけ日本で学んでおいて米国では実地に集中できるようにしました。日本人の教官の授業も基本、英語で受けていました」

一瞬たりとも気を抜けない

昨年10月、米国ジョージア州アトランタの航空スクールで実機訓練に臨んだ。1日平均2~3時間の飛行訓練を約1カ月半にわたり続けた。

コックピット内での安里さん。渡米中は航空スクールの教官の自宅に滞在。現地では日本で先行して学んだ座学の成果を発揮し、免許取得に必須の筆記試験にも合格

フライト前には数時間ぶんの天候を入念に確認する。「地上と上空では強さがまるで違うこともある風はなかなかの大敵。命に関わるので飛行中は一瞬たりとも気を抜けない。長時間飛んでると心身ともに疲れ、パイロットの大変さを実感しました」

鳥になったみたい

同乗者のいない単独飛行、夜間飛行、緊急時の対処法といった多くのフライト技術を習得。ある日のフライトでは、終始、教官に怒鳴り散らされた。「どんな状況でも冷静に操縦桿を握っていられるか試すため、隣の教官が僕を怒鳴りつけ、プレッシャーをかけてくるんです。……ひたすら耐え抜きました」

アトランタ上空からは絶景が広がる

ハードな訓練が続いたが、憧れ続けた空の世界は「鳥になった感覚」で格別だという。「自分が飛行機を操縦していることに感動します。上空から街を見下ろし、湖に反射する夕日やきれいな夜景。地上では見られない風景に出会えます」

飛行機愛する気持ち胸に

帰国後は一度も飛行しておらず、「早く日本の空を飛びたい」。現在は大学進学を目指す受験生。「大学では都市環境を学びたい。便数が増え、さまざまな機能拡張が必要になる空港の建築デザインを考えてみたいです」

実は安里さんは文系の高校生。「文系でもパイロットになれます!」。米国で取得した自家用パイロット免許は、書類の手続きで日本国内でも有効となる

大学卒業後には航空大学校への進学も視野に入れ、「飛行機を愛する今の気持ちを忘れず、将来は日本の航空業界の発展に携わっていきたい」と、青写真を描いている。