和の世界観を表現した同校オリジナル曲を、定期演奏会では華やかな和装での日本舞踊を交えて表現した(12月10日、同校での定期演奏会前の練習。一部の日舞メンバーを撮影)

東京・東海大学付属高輪台高校吹奏楽部は、10月末に開催された第65回全日本吹奏楽コンクール(全日本吹奏楽連盟など主催)で金賞を獲得するなど、各大会で好成績を残す。「楽しくやる」をモットーに、独自の練習を取り入れながら切磋琢磨(せっさたくま)する姿を追った。 (文・中田宗孝、写真・幡原裕治)

東海大学付属高輪台高校吹奏楽部は、工夫を凝らした練習に日々励んでいる。顧問の畠田貴生先生は「楽しくやるのが一番」と話す。

定位置から離れて演奏

全体合奏での一幕。畠田先生が「好きな席に移動して」と声を掛けると、部員たちは一斉に散らばった。前列のフルート奏者が後列のトランペットの位置に、ファゴット奏者はサックスの位置に――と、普段の定位置とは異なる席で再び楽曲を演奏する。
 主旋律を吹くことが多いサックス奏者で、部長の児玉美玲さん(3年)は「トロンボーンなど伴奏を吹く低音楽器の席に座るよう心掛けています」と話す。「後方で演奏してみると『こんな曲に聞こえるんだ』と新鮮な発見がある。隣になった他楽器のブレスのタイ
ミングも確認し、良い部分は自分のパートに取り入れます」

普段は座らない場所で演奏することで、音の聞こえ方の違いなどに気付くことがある

体動かして曲表現

曲のイメージをつかむため「アクティブ練習」を行うこともある。例えば、今年度のコンクール用の楽曲では、奏者全員で曲中の難しい変拍子パートを「チャン、チャー、チャッ」と、楽器を鳴らさずに口ずさみながら、両腕を体の正面でグルグルと回す。歌や体の動きをつけて楽曲を具現化させることで、部員同士が楽曲のイメージを共有することができる。

【アクティブ練習】曲を口ずさみながら、体を動かして曲を表現する

部員同士でイメージ共有

アクティブ練習は楽曲によって、陽気に踊ったり勇ましく行進をしたり、と体の動きは変わる。時には、物語仕立てになることもある。「どんな動きにしようか、(部員みんなで)毎回楽しみながら考えているんです」(児玉さん)
 この独自の練習をすると、譜面通りの演奏以上の、表現力に磨きのかかった「高輪台サウンド」が完成する。コンサートマスターの八百板亜美さん(3年)は「アクティブ練習後の演奏は、音のまとまりや響きが格段に良くなります」と、その効果を話した。

リトミックも取り入れている
演奏に合わせて日本舞踊

部員同士で話し合いを密に行う

演奏を終える度に「音程良くして」「こうした方がいい?」といった各パート同士の意見交換が積極的に交わすのも特徴だ。「まずは自分たちで考え、話し合います。奏者一人一人が曲に対する意見や責任を持つことで、その場の雰囲気に流された適当な演奏をしなくなる」(八百板さん)

ラーメンの例え話で音が変わる

「気持ち一つで音は全然変わる」と畠田先生は話す。「音に元気がないので(部員に何かあったか)聞くとテストが返却されてあまり良い点数じゃなかったり、悩みがあったりします。反対に、バーンという良い音が出ているときに『どうした?』と聞くと心配事がなくなったなど、良いことが起きていたりします」。合奏をして音が汚いと感じれば、「きれいなものを想像してごらん」と問いかける。「ヨーロッパの教会」「富士山」など、いろいろな意見が出るという。部員の気持ちを高めることで、演奏の質を上げていく。

顧問の畠田先生

食べ物での例え話も多くするという。「(今の演奏は)スープは少ないのに麺が大盛りのラーメンだな。しかもチャーシューはまずい。麺(主旋律)とスープ(低音)がアンバランスじゃ、美味しいラーメンにならないよね」というように、演奏の改善点を分かりやすく指摘し、導く。「音楽はいろいろな用語があってわかりづらいですからね。生徒にわかりやすく伝えるために例え話をよく入れています」(畠田先生)