第96回全国高校サッカー選手権決勝が1月8日、埼玉スタジアムで行われ、前橋育英(群馬)が流通経大柏(千葉)を1-0で破り、21度目の出場で悲願の初優勝を遂げた。前回大会決勝の大敗からスタートを切ったチームは、選手同士のミーティングで築き上げた結束によって日本一をもぎ取った。(文・茂野聡士、写真・幡原裕治)

流通経大柏は昨年夏の全国高校総体(インターハイ)で敗戦した相手だった。「相手の守備は固かったです。でも、絶対に自分たちが決めてみせるという気持ちでいました」と振り返るのは、後半アディショナルタイム、頂点に導くゴールを決めたFW榎本樹(2年)だ。大会得点王に輝いたFW飯島陸(3年)のシュートのこぼれ球をゴールにたたき込んだ。

決勝点を決めたFW榎本樹
得点王となったFW飯島陸(右から二人目)を流通経大柏のDF三本木達哉(左)が徹底マークした

 

選手ミーティング密に

昨年の選手権決勝で、前橋育英は青森山田(青森)相手に0-5と大敗を喫した。MF田部井悠(3年)は「試合後のロッカールームで山田(耕介)監督から怒られたんです」と苦笑交じりに回顧する。ただ、全ての面で差を見せつけられたショックが成長への第一歩となった。
 中心で引っ張ったのは、主将のMF田部井涼、副将のMF塩沢隼人(ともに3年)だった。常に大切にしたのは、選手だけで実施するミーティングだったという。
 「内容の悪い試合があれば、すぐに開きました」(田部井涼)、「試合内容から普段の練習に臨む姿勢まで、30分以上話すこともたびたびありました」(塩沢)。DF松田陸(3年)は「(ミーティングで)チームが引き締まった」と振り返る。練習は、試合さながらの強度で行われるようになり、実力アップにつながったという。

副主将を務めたMFの塩澤隼人(右)

「5原則」を徹底

決勝はその集大成だった。コンセプトである「攻守の切り替え、球際の強さ、ハードワーク、声、ボールに競り合って拾う、の5原則」(田部井涼)が徹底されていた。しかし声の部分は、4万人超の大観衆が詰め掛けた決勝では互いに聞き取りづらく、意思疎通が難しいように見えた。それでも「監督の『落ち着け』『冷静になれ』というジェスチャーに気づいた選手がすぐ、周りの選手に素早く伝えてくれました」(田部井涼)と、各選手がいち早く行動することで勝利につなげた。

チームを率いたキャプテン・MF田部井涼

「監督を男にしたい」

選手たちは「初優勝をプレゼントして監督を男にしたい」(田部井悠)とも話していたという。その言葉通り、屈辱の大敗からたくましく頂点に立った。

 
【チームデータ】
 1964年創部、部員159人(3年生50人、2年生53人、1年生56人)。愛称は「上州のタイガー軍団」。2009年度のインターハイでも優勝。故松田直樹さん(元横浜F・マリノスなど)、細貝萌(柏レイソル)ら日本代表を輩出している。