12月30日から1月11日まで行われた第94回全国高校サッカー選手権。 “文武両道”を掲げる国学院久我山(東京A)が、練習環境が制約されるハンディをものともせずに、強豪校を次々と破って初の準優勝を果たした。決勝は東福岡(福岡)の前に0-5の大敗を喫し、選手たちは悔しさをにじませたが、今大会で得た経験はかけがえのないものとなるはずだ。(文・茂野聡士、写真・幡原裕治)
■決勝は東福岡に完敗も、5万人の観客沸かせる
「一言で言うと、東福岡が強かったです。私たちはベストゲームをできるように準備して臨みましたが、もしベストゲームをできたとしても『どうだったかな?』と思うくらい力の差がありました」(清水恭孝監督)
「今年やった中で、一番強い相手だったと思います」(DF野村京平・3年)
「東福岡は…日本一のチームでした。自分たちのレベルはまだまだ甘いというのを実感しました」(MF名倉巧・2年)
決勝戦後、監督、選手とも真っ先に口にしたのは、「夏・冬2冠」を果たした王者・東福岡の強さだった。前半途中まではシュートまで持ち込むなど互角に渡り合ったものの、前半36分に先制点を奪われて以降は苦しい展開となった。ハーフタイムには「前半に1点取られて『後半は前から行くぞ』と話し合った」(名倉)が、後半4分にはトリッキーなFKで追加点を許した。
その後も3失点を喫したものの、主将のDF宮原直央(3年)が「(何とか1点を)獲りにいく」と話した通りの姿勢を貫き、チャンスを作る度に埼玉 スタジアム2002に駆けつけた5万人超の観客を沸かせた。
観客が後押ししたのは、決して敗色濃厚となったチームへの肩入れだけでない。複数の選手がお互いの意図を合わせて仕掛ける、魅力あふれる攻撃。そのプレーぶりは個人の力量に頼るのではなく、サッカーに不可欠なチームワークを感じさせるもので、多くのファンの心をとらえた。
「久我山のスタイル」と清水監督が語る、そんなアグレッシブなサッカーは全国の強豪相手にも通用した。準決勝では、高校生年代最高峰のリーグ戦「高円宮杯プレミアリーグ」東地区で2位に入った青森山田(青森)に逆転勝利するなど、過去最高の成績となる準優勝にふさわしい戦いぶりを見せた。
■部活と勉強、両方に取り組んでこそ成長できる
定期テストの成績次第では練習に参加できないというほど、高いレベルでの学業との両立を志す国学院久我山。1年生ながら正守護神の座に君臨する平田周も、「サッカーだけやっていてはいけない。勉強にも取り組まないといけないです。サッカー以外の部分でも努力するということは、自分を成長させてくれると思います」と、勉強と部活の両面で全力を尽くす重要性を実感している。
また、練習時間は基本的に放課後の2時間~2時間半程度。それもグラウンドは野球部との共用のため、ハーフコート程度の広さの中で200人を超える部員が練習する。狭い練習環境でもボールを奪われない技術、フリーでパスを受けるための動きの質、フィジカルの差があっても競り負けない体の使い方を学び、試合で生かしていく。元日本代表監督のイビチャ・オシム氏の有名な格言である「考えながら走るサッカー」ともリンクする、頭と身体をフル回転させるプレーを実践しているのだ。
■インターハイ初戦敗退から急成長
そんな国学院久我山だが、今年度のチームは積極果敢な攻撃にプラスして「粘り強さ」(清水監督)も日に日に高まっていたという。そのきっかけは昨夏の全国高校総体(インターハイ)だった。2年生ボランチの知久航介が「自分たちは練習試合では強かったけど、公式戦で力を発揮できないということが多かったです」と語るように、1回戦で明徳義塾(高知)に逆転負け。その悔しさを糧に、チームはさらなる成長を目指した。
「インターハイに負けた後の夏合宿などでメンタル的にも身体的にも鍛え上げられて、着々と力をつけてきたと思っています」(野村)
都大会決勝では6度の選手権優勝を誇る名門・帝京相手にPK戦までもつれながらも勝利。選手権でも準決勝まで1点差かPK戦での勝利と、苦境に立たされても勝ち切った。清水監督も、選手たちがたくましさを増していく様子を肌で感じ取っていた。
「今年のチームを成長曲線で表現すると、最後に一気にグンと伸びたなと思います。チームを見ていて躍動感があったと思いますし、彼ら自身が自信満々にサッカーをやっているなと思っていました」
■来年、またこの舞台に
決勝戦は、東福岡という高い壁に跳ね返された。そこから3年生は大学入学に向けた受験へと気持ちを切り替え、下級生はさらなる高みを見据える。
今大会の優秀選手に選出された名倉はこの1年を振り返り、そして来年度に向けての目標をこう語った。
「今まで3年生と一緒に『日本一』を目指してやってきました。その夢には届かなかったですが、自分たちにはもう1年あります。この悔しさを受け止めて、僕や(渋谷)雅也(2年)、知久といった大会を経験した選手たちがチームを引っ張って、またこの大きな舞台に戻ってこられるように1年間頑張っていきたいと思います」