大声が飛びかう練習中。 ディフェンスの練習でも走りまくっていた

昨年、地元出身選手を主体に、全国高校バスケットボール選抜優勝大会(ウィンターカップ)に2年連続3度目の出場。近年めきめきと力を付けてきている正智深谷(埼玉)男子バスケットボール部は、スーパースター不在ながら足を徹底的に鍛え、高さや能力のハンディを克服している。(文・写真 青木美帆) 

チームのモットーは「うまさより強さ、高さより速さ」。体と気持ちの強さを前面に押し出したディフェンスと、緩急をつけたオフェンスで相手チームを出し抜く。波多智也主将(3年)=埼玉・山王中出身=は「すごくうまい選手はいないから、攻守ともに足を使って、チームで戦うことを徹底している」と話す。

春季大会を間近に控えた4月下旬の取材日は、実戦的な練習に時間が割かれた。特に、ディフェンスとトランジション(ディフェンスからオフェンスへの素早い切り替え)を意識したメニューが多い。ダッシュ、ストップ、小刻みなフットワークと、激しく足を使う。「練習自体が走るトレーニングのようなもの。きついです」と波多。この時期、ほとんどの1年生は、ハードな練習での故障を避けるため別メニューだ。

練習中は、練習の残り時間や回数を指の本数で示す

指と声で意思疎通

チームの一体感を養うため、練習中に起こる出来事を全員で共有する。部員は練習の残り時間や回数を、指の本数と声で周囲に示す。成田靖監督の指示を、離れた位置のメンバーにもきちんと伝わるように大きな声で復唱する。「疲れていても、気付いたことは声に出して指摘するよう心掛けている」と、新年度からAチームに昇格した柴田怜於(3年)=栃木・鹿沼北中出身。体育館には40人以上の怒号のような叫び声が終始飛び交い、練習は活気を帯びている。

しかし、成田監督は何度も首をかしげた。「気持ちを出すだけじゃ足りない。考えろ」「練習のための練習になっているからミスが起こるんだ」と何度も指示を繰り返す。「選手自身が何をすべきか考えていない時、いつも言われている」とマネジャーの渋谷佑己(3年)=埼玉・本庄東中出身=が苦い顔で教えてくれた。素材に恵まれていないチームが「本気で日本一を狙う」(波多)ために、まだまだ奮闘は続く。

 

 チョロQとハエのように 成田靖監督(41)

能力の高い選手が集まる名門校と同じプレーをするのは無理。緩急をつけて力強くプレーすることで、名門校を嫌がらせることができると思ったのが2012 年度の代を指導した時でした。イメージはチョロQ のようなスピードとハエのようなディフェンスです。

スピードとディフェンスのどちらも、トレーニングで培っています。時期に応じて週1~3回、トレーナーの指導を受けつつ「ドリブルの突き出しの力強さ」といったバスケット的な動きの強化も日々の練習に加えていきます。障害予防のトレーニングや体幹を強くするフットワークなどを取り入れたウオーミングアップにも結構、時間を割いていますね。

今年の選手は例年に比べて能力もサイズもあるのですが、少し冷めたところがあります。ルーズボールの奪い合いなど、チームに活気を呼ぶプレーが出るまで練習を続けさせて、「頑張る」ということを体感させるよう意識しています。僕がベンチでピエロのように煽あおるのではなく、選手から湧き出た熱さを上手に試合の雰囲気に取り入れてあげたいです。

 
 

 

チームデータ1976 年創部。部員51人( 3 年生13 人、2 年生17 人、1年生21 人)。2012 年のインターハイでは小柄かつ全国的な有望選手が不在ながら、優勝候補だった尽誠学園(香川)などを破って3位に輝いた。