2013年、夏の甲子園で鉄壁の守備とチームワークを武器に、初出場初優勝の快挙を達成した前橋育英(群馬)硬式野球部。昨年、一昨年は県大会で敗れたが、今年は春の県大会と関東大会を制して勢いに乗る。特別な練習をするわけではない。当たり前のことを当たり前に、2度目の日本一を目指す。
(文・田中夕子、写真・幡原裕治)
生活の基本 できてこそ
「10セット目お願いします!」。室内練習場から聞こえる声は熱気を帯びていた。左右にバットを振って両面でボールを打つ両面打ち。小川龍成主将(3年)は「育英オリジナルがあるとしたら、この練習ぐらい」と笑う。
全国制覇をした3年前は兄の駿輝さんが在籍、捕手としても打者としてもチームの主軸を担った。「自主性を大切にしながら、野球以外の部分もすごく大切にするチームだな、と自分が入ってあらためて感じました」
荒井直樹監督が掲げる「凡事徹底」は、誰でもできることを誰にもできないくらい徹底して、一生懸命やるという意味。同部は、まさにそれを実践するチームだ。
ベースになるのは、部屋をきれいにする、あいさつをする、といった生活の基本。野球に関係ないことのように思えるが、エースの佐藤優人(3年)が「部屋をきれいにするなど、生活をコントロールできないようでは、ボールをコントロールすることもできない」と言うように、実は日ごろの生活が野球に与える影響は大きい。
狙い球は選手が決める
監督が「カーブを狙え」などと狙い球を指示するチームが多い中、前橋育英は選手同士で実際の感覚を共有し「ストレートを狙おう」と決めて実行する。たとえ、うまくいかなかったとしても、やるべきことを徹底した結果ならば責められることはない。自主性を重んじながら、練習は明るく、伸び伸びとした雰囲気が強さを生み出す源だ。
春季関東大会を制したが、決して万全な状態ではなかった。県大会では主軸を担いながら、関東大会に出場できなかった三ツ井朋大(3年)も「けがをして落ち込んだけれど、監督から『奇跡を起こすつもりでやってみろ』と言われて元気が出た」と言うように、けがは完治していないが、夏の勝利に貢献するために準備をしている最中だ。
昨年は春の県大会を制しながら、夏は初戦敗退で涙した。あの悔しさも力に変えて、最強のチームワークを武器に、3年ぶりの日本一を目指す。
- 【TEAM DATA】
- 1964年創部。部員60人(3年生19人、2年生20人、1年生21人)。2011年春の選抜大会に出場したが初戦敗退。2年後の13年夏の甲子園で初出場初優勝。長期的視野でのトレーニング指導や基礎を重視する練習には定評がある。夏の優勝投手である高橋光成は埼玉西武ライオンズで活躍中。