⽯垣元気(群馬・健大高崎3年)は、10月23日に行われたプロ野球ドラフト会議でロッテ、オリックスから1位指名を得た、最速158キロを誇る今年度高校生ナンバーワンピッチャーだ。甲子園を目標に北海道から進学した石垣は今、プロへの道を歩み始めている。(文・写真 小野哲史)

兄を追いかけ小1から野球を始めた

北海道で生まれ育ち、2人の兄を追いかけるように小学1年から野球を始めた。中学時代は北海道選抜にも選ばれた。しかし、「北海道を出て、強い高校に行きたい」という思いに迷いはなく、高校は唯一勧誘があった健大高崎へ進んだ。

「(健大高崎は先輩やチームメイトが)スイングもボールのスピードも速く、守備のフットワークも良い。全員のレベルが高いなと感じました。ライバルがいっぱいいたので、自分的にも燃えて、ワクワクしながら毎日やっていました」

石垣元気。健大高崎では「技術も向上できたけれど、それ以上に人間的に成長できた。みんなと野球をできたのが財産になりました」と語る

最速158キロのストレートが武器

投手としての強みは、最速158キロのストレート。中学の頃に130キロ台中盤だった球速は、高校入学を迎えるまでの走り込みですぐに141キロに達した。

さらに高校では、筋肉や間接に負担をかけずに体を動かすトレーニング法の「初動負荷トレーニング」で体の使い方を理解してから「自然とフォームにも染みついた」と話すように、安定して150キロ台を出せるまでになった。速球という絶対的な武器を手にして、速球を警戒する相手に対し、カットボールやスプリットといった変化球もより威力を発揮した。

最速158キロのストレートは「自分の魅力」と語った。力強い速球を武器に、昨春のセンバツではチームを日本一に導いた

センバツ群馬勢初の日本一「自信ついた」

そうした成長の過程で、入学時に掲げた「1年生からベンチに入って試合に出る」「甲子園に行く」という目標を一つずつクリアしていく。甲子園には2年の春と夏、3年の春と夏と4大会連続出場。中でも初めて甲子園のマウンドに立ち、群馬県勢初となる日本一に輝いた昨年のセンバツは格別の思い出がある。

「自分も全5試合のマウンドに立てましたし、佐藤龍月(3年)と2人で投げ切れたのは一番思い出に残っています。佐藤のおかげで一緒に高め合いながらできて、全国のレベルが高いチームと試合をしてある程度抑えられたので、すごく自信がつきました」

その後、3度の甲子園では望んでいた結果を残せなかったものの、「甲子園は自分を成長させてくれた場所でした」と感じている。

23日のドラフト会議でロッテ、オリックスから1位指名された石垣。交渉権はロッテが獲得した。日本球界だけでなく、メジャー球団からも高い評価を受けている

メジャーリーグ関係者も驚き

9月に沖縄で開催されたU-18野球ワールドカップでは、チームメイトの下重賢慎(3年)とともに日本代表として世界の強豪と対戦。好リリーフでチームの準優勝に貢献した以上に、「レベルが高くて、いろいろ刺激を受けた選手もいて、本当に良い経験ができました」と大きな収穫を得た。アメリカとの決勝戦では最速158キロをマークし、メジャーリーグ関係者をも驚かせた。

上手くいかない時は「力不足を認める」

もちろん、これまでの高校生活を振り返ると、すべてがうまく行ったわけではない。「去年の夏の甲子園での智弁学園との2回戦と、秋の関東大会での横浜との決勝が3年間で一番悔しかった」と挙げたように、重要な試合で勝てなかった経験もあれば、脇腹を痛めてしまった時もある。挫折と感じてはないが、うまく行かない時こそ、「自分の力不足を認めて、もっと練習するようにしました」と謙虚に自身と向き合ってきた。

「当たり前のことを当たり前にやる」

青栁博文監督をはじめ、生方啓介部長やコーチ陣に日頃から言われている「当たり前のことを当たり前にやる」という姿勢を生活面でも大切にしている。「野球のことだけでなく、私生活や学校生活でも見られていることを意識すべきと言われてきました」

高校入学時は「甲子園出場」が目標だったが、入学から約1年後のセンバツ優勝を遂げ、強くプロ入りを意識するようになった。「自分はプロを目指しているので、『プロの世界に行く人』として見られます。そういう人間は、特に当たり前の行動や正しいことをしていかないと応援される選手にはなれないと思っています」

【ドラフト1位指名】健大高崎・石垣元気の練習風景

プロ入り目指し冷静に体作り

いまや日本球界だけにとどまらず、メジャーの球団も石垣の動向に注視する。ただ、当の本人は「そのように高く評価していただけるのは、とても光栄です。でも、プロになってからがスタートだと思っているので、もっと頑張らないといけない気持ちです」と冷静だ。

「プロに入るなら体力作りと体作りが大事なので、今はウエートトレーニングを中心に、軽くキャッチボールをやったりして過ごしています」

「球速160キロ目指したい」

ドラフト会議前の取材では、プロ入りがかなったら「160キロは目指したい」と語った。自慢の速球をさらに進化させつつ、「先発して勝ち星を挙げられるピッチャーになりたいです」と力を込める。

理想の投手像には、オリックス時代に日本でほぼすべての主要タイトルを獲得し、昨季からメジャーで活躍する山本由伸(ロサンゼルス・ドジャース)を挙げた。

「とにかくコントロールが良い。ストレートにしろ変化球にしろ、どちらでもカウントを取れて、三振も取れるところに憧れています。体格も自分と似ているので、山本選手のような投球術が自分の目指す完成形かなと思っています」

プロの世界が厳しいと十分に承知している。それでも石垣は、健大高崎に入学した頃のように、レベルの高い選手たちに囲まれ、ワクワクした気持ちを抱えながら自分の目指すピッチングを追求していけるはずだ。

【一問一答】ラーメン大好き「週1で食べる」

―試合前のルーティーンは?

チームではベンチ入りする全員で試合前に3分間、座禅をします。この時は無になったり、自分がマウンドに立っている姿を想像して、どんなふうに投げるかを考えたりしています。

―自分の性格を言い表すと?

負けず嫌いです。野球はもちろん、日常生活のちょっとしたことでも負けるのは嫌です。

―趣味やハマっていることは?

体を動かすのが好きなので、部活が休みの日もランニングをしたり、仲間とサッカーをしたりしています。最近は蒙古タンメンにハマっていて、近くにある店によく食べに行きます。

―野球以外では高校生活でどんな思い出がある?

お正月など地元に帰省できる時は楽しい気持ちになれました。家族や友人が「お疲れさま」と温かい言葉をかけてくれるので、また頑張ろうと思えるし、やっぱり居心地が良いです。

―得意な教科は?

体育が好きです。数学など理数系は苦手でした。

―オフの日の過ごし方は?

睡眠が大事だと思っていたので、たまに出掛けることはありましたが、寮で寝ているのが多かったです。

―好きな食べ物は?

ラーメンが好きで、週に1回ぐらいは食べに行きます。

―座右の銘は?

「I believe」です。スマホを見ていた時に何かに出てきた言葉で、「自分を信じる」という意味がすてきだなと思って好きになりました。

―選手引退後の夢は?

社長になりたいです。野球の指導者は向いていないと思っています。

いしがき・げんき 2007年8月16日、北海道生まれ。180cm・78kg。右投両打。登別市立西陵中卒。小学1年から野球を始め、中学時代は洞爺湖リトルシニアに所属。健大高崎では2年春から4大会連続で甲子園に出場し、2年春のセンバツでは全5試合に登板してチームを群馬県勢初の優勝に導いた。9月のU18ワールドカップでは日本代表の準優勝に貢献した。