私立校に強豪がひしめく東京で、都立の小山台高校(東京)硬式野球班が存在感を放っている。決して十分とは言えない練習環境は、時間の使い方や練習方法の工夫でカバー。「甲子園で1勝」という目標に向かって鍛錬を続ける。(文・写真 小野哲史)
練習時間は1時間
部活動のことを班活動と呼ぶ小山台高校は、班活動の活動時間が極めて短い。定時制があることから、完全下校は17時。7時間授業となる3学期は、準備や片付けの時間を除くと、実質1時間ほどしか練習できない。
班長の岡村ルカさん(2年)は、「毎日をできるだけ効率的に過ごす。無駄な時間を減らすことに焦点を当てています」という。

目標は「日本一いいチーム」
「日本一のいいチーム」を一番の目標に掲げる。「授業態度や生活面、人間関係などで素晴らしい人間を目指し、それで日本一になれたら野球の全国制覇につながるという考えで、要は心です。ただ楽しいだけではなく、何事にも真剣に取り組み、チームワークを大切にする姿勢が大切です」(福嶋監督)
班員たちは監督の考えが浸透しており、常にきびきびと小気味よく動く。5年前にグラウンドが人工芝となってからは、ケガもしにくくなり、より動きの大きい練習メニューも可能になった。

「守備練習では取れない打球が7割、取れるのが3割ぐらいのノックをよくやります。試合ではファインプレーを起こさないと勝てないので、ダイビングキャッチなどで球際(捕球)が強くなるように意識しています」(岡村さん)
【1日のスケジュール】グラウンドは他の班と共有
朝練は、学校の規則で週3回まで。メニューは時期によって変わり、ポジション別の守備練習やランニングなどを行う。部での朝練がなく自主練習の日は、ウエートルームでウエートトレーニングをする班員が多い。
放課後は、他の運動班とグラウンドを半分ずつ共有する。野球場で言えば、内野ぐらいのスペースしか使えない。

そこで七つほどのグループに分かれ、打撃、守備、体力強化などのテーマで、ローテーションをしながら数分間ずつさまざまなメニューをこなす。河川敷や球場を使用できる日は、より実戦的なメニューになる。
下校後は自宅で勉強する以外に、「素振りをしたり、ジムに通ってトレーニングしたりしている」と岡村は話す。
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<ある日のスケジュール(7時間授業)>
7時30分~8時10分 朝練。トスバッティング、ティーバッティング、基本ノック、キャッチボールを4グループでローテーション
15時20分 授業終了
15時30分 放課後の練習開始。準備、各自アップ
15時40分 グループに分かれてローテーション開始。フットワーク、基本ノック→送球、倒立歩行、ジグザグ前進→ハードルジャンプ、ペッパー、縄跳び、連続ティー20本×数セットを行う
16時45分 班活動終了、片付け、着替え
17時 下校
<定例スケジュール>
月曜朝 学年別ミーティング
水曜放課後練習後 グループミーティング、全体ミーティング
毎週末 他校との合同練習や練習試合
通年 学校内外の清掃活動
毎週木曜日朝 教科学習会
【大会に向けた流れ】ベンチ入りメンバーは投票で決定
大会前は試合形式の練習や練習試合が増え、班員は日頃の練習の成果を発揮する。組み合わせ抽選会の直前に、20人のベンチ入りメンバーを班員の投票で決める。
「試合では全員にチャンスが与えられるので、そこで活躍した選手や結果を出した選手がみんなから認められて、大会でベンチ入りできます。単純明快でいいと思います」(岡村さん)
対戦相手の情報を徹底的に分析する。福嶋監督は「動画サイトなどで映像を集めたり、対戦経験がある監督に電話をして、投手や打者の特徴などを教えてもらったりします」と話す。そうして入手した情報は、ミーティングやグループLINEでチーム全体に周知される。
【年間スケジュール】高校生以外の世代と接する
目標は「甲子園で1勝」。そのために日々トレーニングを積む。1、2年生の新チームで臨む秋季大会、関東大会につながる春季大会、全国高校野球選手権大会予選の東東京大会という3大会が、成果を発揮する舞台となる。

試合以外にも、保護者と参加する講習会、中学生や子どもを対象にした「ティーボール講習会」などがあり、高校生以外の世代と接するような機会が設けられている。
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<年間スケジュール>
4月 春季東京都大会
5月 保護者会、栄養学講習会(保護者対象)
6月 引退試合
7月 全国高校野球選手権大会・東東京大会
8月 中学生の体験入部
9月 秋季東京都大会一次予選
10月 秋季東京都大会
11月 中学生の体験入部
12月 子ども対象ティーボール講習会
1月 初詣、グラブ用具講習会
2月 栄養学講習会(班員と保護者対象)
3月 卒業生保護者を送る会、卒業生を送る会
【上達のコツ】「野球日誌」でコミュニケーションを図る
練習時間の確保を優先すると、ミーティングも頻繁にはできないため、野球日誌を駆使し、チーム間や福嶋正信監督とコミュニケーションを図っている。

班員一人一人が野球や生活のことを記す「個人日誌」、班員がチームへの思いを順番に書いて回す「班日誌」、プロ野球選手の写真を参考にして各自の技術を考察する「技術ノート」の3冊を使っている。
福嶋監督は「技術の習得に終わりはない」という考えから、現状より少しでもレベルアップできるように手書きでアドバイスを返す。
体格のいい選手が多かった3年生の代は、打撃が持ち味のチームだった。今年の小山台は守備で粘り勝つような戦いで、2014年センバツ大会以来の甲子園出場を見据える。
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小山台高校硬式野球班
1946年創部。部員47人(2年生22人、1年生25人)。2014年、選抜大会(センバツ)に21世紀枠で初出場。18、19年と2年連続で夏の東東京大会準優勝。練習場所は学校グラウンド、多摩川河川敷野球、江戸川球場、大田スタジアムなど。土日には遠征して合同練習や練習試合を行う。