西日本短期大学附属高校(福岡)野球部では、部員全員が短歌と俳句を作っている。一見つながりがないように見える、野球と文芸。甲子園出場経験がある強豪に、創作活動に励む理由を教えてもらった。(文・黒澤真紀、写真・学校提供)
気になった言葉はすぐにメモ
- 「西短」の長き伝統守り抜くプライド懸けたストレート投ぐ(早川彰太郎)
- 怪我重ねナインに託す最後の夏かける言葉はだれより熱く(重松龍也)
どれも卒業した同校の野球部員が作った短歌だ。いずれも、昨年の第26回全国高校創作コンテスト(主催・國學院大學、高校生新聞社)に入賞している。
同校では、国語教諭の城尊恵先生が受け持つクラスで短歌や俳句創作をしている。これまでは、城先生が教える一部の野球部員が短歌・俳句づくりをしてきたが、今年度からは西村慎太郎監督の意向で部員全員が挑戦するようになった。
部員たちは寮生活の合間の時間などで創作に励む。部活や高校生活での気づきを作品に落とし込むため、北村康晟さん(2年)は自作の短歌ブックを持ち歩いている。「友だちと話す中で気になった言葉や覚えておきたい感情をすぐにメモしています」
江口翔人さん(3年、前主将)は、部活でのミスやつらかったことも「どうやって短歌で表現しようか」と考えるようになり、自身の気持ちを深く掘り下げるようになったという。「単なる日記と違って、短歌は(字数が少ないから)より良い言葉を選ばなければなりません。そうやって厳選した言葉で表現することで、その時の感情がより強く心に残る。日々を振り返ることで自分もチームも成長していると感じます」
他者を気遣う心が育つ
- パーキンソン患う祖父を負んぶする昔祖父がしてくれたように(山口雄大)
この短歌は、山口晃生さん(1年)の兄の作品だ。兄も野球部員で同校の卒業生。「短歌がきっかけで兄の言葉の雰囲気が優しくなった」と、兄の当時の様子を振り返る。
「たまに寮から家に電話をかけてくる程度だったが、短歌づくりを始めてから病気の祖父や家族を気遣うようになったのか、電話を頻繁にかけてくれるようになってうれしかったです。言葉遣いもやわらかくなりました」
自分を表現する言葉を知る
西村監督は、短歌・俳句づくりの手ごたえを語る。「創作活動を通じて、利己的だった子が、チームメイトの考えや気持ちに思いをはせるようになった。子どもの会話がこんなに変わるのかと驚きました。言葉で自分を表現できるようになり、内面が成長したのでしょう」
野球とはまったく違うジャンルに触れることで、視野が広がり、人として成熟し、「一人で野球をしているのではない」と気付くのだという。
短歌や俳句づくりの指導をする城先生は「創作の立脚点は命を慈しむこと。体験から言葉を引っ張り出すことで、生きている実感を大切にしてほしかった」と狙いを話す。「野球部の生徒には『私は野球がよくわからないから、みんなが感動する瞬間の世界を教えてほしい』と伝えています。彼らなりに絞り出した言葉に心を揺さぶられるのです」