壱岐(いき)高校(長崎)野球部が今春の第97回選抜高校野球大会に初めて出場した。「壱岐から甲子園を目指そう」。中学時代の約束が現実になった。離島というハンディを超え、島の仲間とつかんだ初出場の舞台裏と思いを部員と監督に聞いた。(文・写真 財部智)
離島のハンディ乗り越え選抜初出場
「選ばれた2校は、まず九州地区の……壱岐!」「ヨッシャー! ヤッター!」
選手たちは歓声を上げ、自然と抱き合っていた。1月、選抜高校野球大会の21世紀枠で壱岐高校(長崎)野球部の初出場が決まった瞬間だった。
21世紀枠とは、地区大会での一定の成績に加え、他校の模範になる活動や困難を乗り越えてきた背景がある学校が対象になる制度だ。離島である壱岐高校にとって、遠征や練習試合の調整は簡単ではない。坂本徹監督は「うちは恵まれている方」と話すものの、離島というハンディと秋季県大会準優勝という成績が、選抜出場の追い風になったのは間違いない。

チームワークの良さが武器「小さい頃から仲良し」
反復練習で鍛えた守備力と、チームワークの良さが大きな武器だ。「小さい頃から仲が良く、お互いの特徴を知り尽くしているのが強みだと思います」(捕手の岩本篤弥選手・3年)。
壱岐の中学校では、男子生徒の多くが野球部に所属している。酒井圭一投手(元ヤクルトスワローズ)も壱岐出身で、昔から野球が盛んな土地柄だ。

現在の高校3年生世代が中学3年の時、壱岐市内の中学2校がともに長崎県の大会を制する快挙を成し遂げた。ロッテオリオンズで「マサカリ投法」で活躍した故・村田兆治氏が提唱者の「全国離島交流中学生野球大会(離島甲子園)」にも出場している。当時、合同練習の見学などで彼らを見ていた坂本監督は、「地肩が強い、コントロールが良いなど、投力のある子が多かった」と振り返る。
「壱岐から甲子園目指したい」
例年、軟式野球部で活躍した中学生の多くが、より甲子園に近い県内外の強豪校へと進学していく。だが、今の3年生たちは、地元の壱岐高校を選んだ。
「中学時代の合同練習でボール拾いをしながら、『壱岐から甲子園を目指そう』とみんなで話したのが、壱岐への進学の決め手になりました」(投手の浦上脩吾選手・3年、主将)

大応援団に背中押され「堂々プレーできた」
選抜大会初戦の相手は、近畿大会優勝校・東洋大姫路だった。「強いところとやりたかった」という選手たちにとって、申し分ない相手だった。一塁側のアルプススタンドは島民らの大応援団で埋め尽くされた。選手は口をそろえて「力になった」と感謝の言葉を口にする。
初回、5番・山口廉斗選手(3年)の2点タイムリーで壱岐が先制したものの、わずか3安打で2-7の敗戦。「甲子園で1勝」という夢はかなわなかった。山口選手は「緊張した中でも堂々とプレーできたのは自信になった」と振り返る。
見えた課題と夏への希望
選手たちは壱岐に戻り、速球への対応に課題を感じ、自ら練習を重ねる。坂本監督は「高めにポイントを置くようにして、鋭いスイングを心がけている」と説明する。
4月、春季九州大会1回戦では神村学園高校(鹿児島)に4-7で敗れたものの、初回に3点を奪うなど、課題克服の成果を示した。浦上選手は「夏には自力で甲子園に行って、支えてもらっている方々に結果で恩返しができるように頑張りたい」と語る。

秋季大会で敗れた海星を最大のライバルと見据えるが、他校も壱岐を研究してくるだろう。越えるべき壁は少なくない。しかし、壱岐ナインの背中には、甲子園でも支えとなった壱岐の人々の熱い声援がある。島民の思いをパワーに変えて、壱岐高校が再び歓喜の瞬間を迎える可能性は、決して小さくはない。
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坂本徹監督
壱岐高校野球部監督として6年目。びわこ成蹊スポーツ大学卒業後長崎県の体育教師として採用され、壱岐は3校目の赴任地。部活データ
壱岐高校野球部壱岐高校野球部 部員38人(3年生12人、2年生9人、1年生11人、マネジャー6人)は全員壱岐市出身。部の伝統として「一心一向」を掲げる。加えて現チームでは「チャレンジャー、ハングリー、思いやり」を大切にしている。部員はお昼の弁当を二つある部室で、バッテリ陣、野手陣に分かれて一緒に食べる。