高校時代に留学すべきワケ

「トビタテ!留学JAPAN」プロジェクトディレクター 船橋力さん

ふなばし・ちから 1970年生まれ。上智大学卒業。伊藤忠商事の商社マンを経て、2000年、企業と学校向けに参加型・体験型教育を提供する企業「ウィル・シード」を設立。13年から現職。

高校時代に留学するとどう変わるのか、メリットはあるのか、「トビタテ」のプロジェクトディレクター、船橋力さんに聞いた。

学びたい分野が見つかる

──留学すると高校生はどう変わりますか。

第一に、日本と全く違う環境で過ごすことで、高校を卒業した後の目標が見つかります。例えば、ニュージーランドに行った生徒は、移民を受け入れて多様性があること、女性が活躍していることを目の当たりにして、大学で移民政策を学ぶことを決めました。ヨーロッパで若者の投票率が高いことを知り、政治について学ぶことを決めた生徒もいます。帰国した生徒から「大学で学びたいことに目覚めた」という話をよく聞きます。

留学した高校生は、結果的に大学受験の結果も良いようです。留学の目的は受験ではないのですが、明確に目的が見つかることで受験もうまくいくのでしょう。

日本の高校生は、本当に学びたいことがないままに「レールに乗って」進学する人が多い。それでは、4年間の時間と多額の学費がもったいない。学ぶ目的を明確に持って進学することで、大学での時間の使い方も、学問の吸収の仕方も変わります。

また、人間としての能力がレベルアップします。留学中は勉強についていくことが大変な上に、家族から離れて日常生活も全て自分でしなくてはいけない。そのことで、コツやポイントをつかむ要領の良さが身に付きますし、困難を自力で乗り越えることで、自己効力感、つまり自分はできるという自信が身に付きます。

挑戦する力が身に付く

異文化の人に触れることで価値観が変わり、いろんなことを許容できるようにもなります。帰国した生徒にアンケートをとると、挑戦する力、コミュニケーション力、積極性が身に付いたという回答が多い。誰にも頼れない環境のおかげでしょう。これらは、大学受験にも、社会人になってからも生きます。

語学の習得自体は、留学の目的として勧めてはいません。3カ月ほどの留学では「話す」「聴く」はある程度できるようになりますが、「書く」「読む」を含めた「4技能」を完全に身に付けることはできません。面白いのは、帰国後に、留学先でできた友達と(インターネットで文章による会話をする)チャットを始めると、「書く」「読む」力も付くことです。留学中にうまく話せずに悔しい思いをしたことで、帰国後に勉強を頑張って語学力が付く人もいます。

大学入学後では遅い

──高校時代に留学すべきだと考えているのはなぜですか。

「トビタテ」の支援をしてくださっている企業の方は「大学に入ってから初めて留学するのでは遅い」と口をそろえて強く言います。多感な高校生の時期に異文化に触れ、自分を見つめ直してほしいということです。今は本当に不確実な時代で、社会に出てからは答えのない環境で仕事をしていくことになります。答えのない状況を切り開いていける人、頭が固まっていない人、異文化対応ができる人を企業がほしがっているのです。

私は、20代の終わりまでに3度留学をするべきだと考えています。考え方が柔軟で吸収力もある高校時代に留学することで世界を知り、大学時代と社会人になってから興味や専門に応じた留学をする。3カ国は見なければ世界は分からないという理由もあります。これだけ世界が劇的に変わっている時代ですが、日本にいてはそのことが分からない。答えの無い環境で、自分の目で見て、人と話し、自分で情報をとりにいく生き方をすることが大事です。

――留学をする時間がとれないという高校生もいるようです。

夏休みなど2週間程度の短期留学をするのでも貴重な経験になります。部活が忙しくて留学ができないという声も聞きますが、それなら部活のメンバーで留学すればいい。「トビタテ」以外の制度で留学するのでももちろん構いません。高校生全員が留学すべきです。

高校や大学で1年間の長期留学をして卒業が遅れることを心配する人もいますが、企業の採用担当者は全く気にしません。むしろ、留学の経験が評価されます。

やんちゃもオタクも採用

――トビタテで採用されるのはどんな高校生ですか。

「トビタテ生」は、事前や事後の研修を通じてお互い交流し、大学生とのつながりもできます。こうしたコミュニティーは多様な人の集団であってほしいので、選考に通る人は多様です。奨学金といっても学校で生徒会長をしていたり、成績が良かったりしなければいけないわけではありません。そういう人もいますが、オタクっぽい人、やんちゃな生徒もいます。選考の際には学校名も成績も見ません。持っていてほしいのは「熱意」「好奇心」「挑戦する気持ち」「独自性」です。応募書類も、理路整然としていなくていいので、情熱が伝わるように書いてほしいですね。

高校生記者の取材後記

 

人見知りでも留学できる(高校生記者・矢舗怜央奈)

 私は都市文化やビルの建築に興味があります。日本の主要都市は中学生の頃に一人で巡ったので、次は海外を視野に入れてみたいと考えました。母に留学の話をすると、「英語が完璧に使いこなせるわけでもなく、ましてや人見知りのお前が海外へ行くなんて無理だ」と否定されました。その意見に異論はなく、むしろ自分でも不安に思っていたことを言い当てられ、やはり諦めるしかないと考えました。

私は、初対面の人と会話をする際に緊張で頭がうまく回らなくなるほど極度の人見知りです。昔からノリが悪いとも言われてきました。そんな僕が言語もコミュニケーションのとり方も異なる海外へ行っても、うまくやっていけないのではと考えていました。でも、どこかでそれを否定して欲しかった自分もいたのかもしれません。

だからこそ、私は今回の取材で問うてみたかったのです。「私のような人間は留学することができるのか」と。船橋さんの答えは「イエス」でした。

「トビタテ」への参加条件はスペックの高さやカリスマ性ではなく、「挑戦心」だと教えられました。多感で、野心溢れる高校生の今だからこそ厚い壁も超えられる。大学生になって留学するよりも格段に多くのことを学べる。そして、失敗しても許される今だからこそ困難なことにも進んで挑戦すべきだ、とも言っていただきました。

これは少しでも「留学」という選択肢が頭の中にある全国の高校生にとって力強い言葉ではないでしょうか。少なくとも私は勇気をいただけました。「困難は自分の挑戦次第でいくらでも超えられるではないか、そのための挑戦がしたい」と感じました。

 高校生のうちに失敗を経験しよう(高校生記者・二見梓)

今回の取材は、進路決定を前にした高校3年生の私にとってとても興味深い内容でした。船橋さんの「高校生の留学はまず外国を見てみたいという興味や好奇心がきっかけになる」という言葉に、私が高校1年生で参加したアメリカのホームステイを思い出しました。

私も憧れから参加したのです。しかし、現地では思うように気持ちを言葉で表現できず、英語力の無さにくじけそうになりました。帰国後は会話が出来るくらいの英語力を身に着けて、また留学したいと強く思いました。

現在、日本の企業で求められるのは、グローバルな人材。高校生、大学生を通して定期的に海外での生活体験をすることで、英語力だけでなく、視野の広がり、世界への関心、対応力、集中力、強さが身につくそうです。船橋さんは「大人になったら失敗はできないから、高校生のうちに失敗を経験しておくほうがよい」と仰っていました。私も留学経験から、本当にその通りだと実感しました。

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