禁止条約に「革新的努力」

平和賞はスイスのジュネーブに拠点を置く国際非政府組織(NGO)、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))に授与される。選考機関であるノルウェーのノーベル賞委員会は授賞理由で「核兵器を史上初めて非合法化する核兵器禁止条約の制定に向け『革新的努力』を尽くした」と述べた。

同委員会は、広島や長崎の被爆者と寄り添いながら核の非人道性を訴えるICANの活動を高く評価しており、今回の平和賞授与は被爆者が受賞するのに等しいといえるだろう。

レイスアンデルセン委員長は「核廃絶に取り組む全ての個人、団体をたたえるものだ」と説明。平和賞授賞を通じてあらためて核の脅威に警鐘を鳴らし、国際社会に核廃絶の努力を促した。

日本のNGOも

ICANは1985年に平和賞を受賞した「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)」の提起で2007年にオーストリアで発足。平和や軍縮、人権などの問題に取り組む100カ国超の約470団体の連合体組織だ。日本のNGOピースボートの川崎哲(あきら)共同代表は国際運営委員で、中核的な存在の一人となっている。

条文に「ヒバクシャ」

核兵器禁止条約は核兵器を非合法化した初の国際条約で、廃絶を実現するため、使用や開発、実験、製造、保有、移譲のほか、「使用するとの威嚇」を禁止した。条約前文には「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と記している。

今年7月、国連に加盟する国・地域の賛成122、反対1、棄権1の賛成多数で採択された。米国、ロシア、英国などの核保有国と、被爆国でありながら米国の「核の傘」に頼る日本は、条約制定に向けた交渉段階から参加していない。

9月に条約への賛同を示す署名手続きが始まり、既に50カ国・地域以上が署名した。

 

 

 

【日本政府は複雑な立場】 ICANの平和賞受賞決定で、唯一の戦争被爆国でありながら核兵器禁止条約に不参加の日本政府は複雑な立場だ。外務省担当者は「核廃絶の目標は共有しているが、アプローチは異にしている」と語り、安倍晋三首相による祝福の談話は、授賞発表のあった10月6日には出なかった。政府は不参加の理由を「核保有国抜きの条約に意味はない」などとする。だが、国際社会には「(被爆国日本の不参加は)核廃絶を目指すヒバクシャへの裏切りだ」(ライトICANアジア太平洋地区責任者)と、日本の条約参加を求める声が強い。