「できることをやればいい」精神的に強くなった

――2人はいつ出会ったのですか?

渡邉 僕も中学生の時に数学オリンピック(の国内大会)に参加し、中2か中3のころに髙谷君に出会いました。もし、数学オリンピックをやっていなかったら、髙谷君みたいな「やばいやつ」を知らないままだったでしょうね。

髙谷 やばいやつって……。

渡邉 いや、人間的にはちゃんとしてるんですけど、数学的にすごいっていうか。彼に出会って上には上がいるっていうことを骨の髄までたたきこまれたというか。日本にこんなにすごいやつがいるなら、世界に行ったらもっとすごいやつがいるだろうなぁと、自分も頑張らなきゃとてんぐにならないで済んだ。髙谷君が中3で(夏の)情報の国際大会に出場したから、僕も中3の(終わりの)春合宿で物理をあれだけ頑張れた。国際物理オリンピックの代表にも選ばれて、高1の夏にインドに行けたのは君のおかげです(と髙谷君を見る)。

髙谷 (苦笑)

――日本代表候補の合宿などを通じて、日本全国のいろいろな高校生と交流を持てるのですね。

渡邉 合宿には日本全国からその教科に関心のある生徒が集まります。知識や経験は一人で勉強していても手に入れることができるけれど、髙谷君のような人に出会えたのは、科学オリンピックに参加したからこそ。この人脈は本当に得難いものです。

髙谷 あと、科学オリンピックの歴代の先輩たちがチューターとして参加してくれます。チューターに出会えるのも魅力です。

――どうやってつながっているんですか。

渡邉 ツイッターとか。

髙谷 僕の場合は、オンライン上で問題を解いたりもするので、そんな時にも接点があります。好きな話ができるコミュニティーといった感じです。数学オリンピックの仲間と話していると、「数学ができてすごいなぁ」という扱いがないのがいいですね。特別視されない。

渡邉 数学や物理への変な先入観がない。「数学や物理をしている」と言うと、「何でそんなことやっているの。お金にならないのね…」と言われる人もいる。

――髙谷君は中3から国際情報オリンピック、高1から国際数学オリンピック、渡邉君は高1から国際物理オリンピックに日本代表として出場し続けてきましたね。連続出場してきたことで、成長したと思えることはありますか?

渡邉 精神的に強くなったかな。高1で出場した時には、緊張はしたけれど、のびのびとできた。いい成績がとれなかったとしても、それは僕のせいじゃなくて、僕を選んだ人が悪いのだと思えたから。それで金メダルをとったら、高2の去年はいい成績を取らなくちゃというプレッシャーがあって、大会中は夜も眠れなかった。今年は自分のできることをやればいいと思えました。いい意味での開き直りができるようになったら、後は自分にできることをやるだけ。

――スポーツの大会に近い感覚ですか。

渡邉 僕は近いと思う。本番に調子を合わせて行くみたいな。それまで解けなかった問題を本場までに解いて、本番にはポジティブに臨むといったような。

髙谷 結局調子が合わなかったり(笑)。

【後編はこちら】役立つかでなく…いかに楽しめるかに尽きる

(聞き手・構成 山口佳子)=2017年8月8日、東京・霞ヶ関で取材