髙谷悠太君と渡邊明大君

今年の夏に開かれた第48回国際物理オリンピック(IPhO)で世界1位になった渡邉明大君(奈良・東大寺学園高校3年)と、第58回国際数学オリンピック(IMO)と第29回国際情報オリンピック(IOI)で世界1位になった髙谷悠太君(東京・開成高校3年)に、それぞれの教科の魅力や、勉強への取り組み方を語り合ってもらった。

【前編はこちら】上には上が…やばいやつと出会って頑張れた

現象を数式で表せるのが物理の面白さ

――渡邉君が物理に興味を持ったきっかけを教えてください。

渡邉 中2の時に通っていた塾で数学を習っていたのですが、問題を解いて時間が余ってしまってゲームをしていたら、大学で原子核物理を専攻していた先生が「そんなに暇なら物理でもやってみろ」と高2の物理クラスに入れてくれた。それが、僕が物理を学び始めたきっかけです。

――物理は面白かった?

渡邉 運動方程式など、目に見えない現象が数式で表せるのが面白かったですね。物理の法則をいろいろと知ることで、今起こっているこの現象の背景にはこういう理論が隠されているんだという発見も楽しかった。物理は数学で物事をみている学問なので、数学力がないとできない。その意味で、僕は数学から勉強を始めて、当時すでに微分・積分まで学習済みだったので、数学と物理を行き来して楽しめています。

――髙谷君は物理オリンピックには興味がありましたか?

髙谷 問題を見たこともありません。

――出場したいとは思わなかった?

髙谷 それより今は大学数学の初歩をしっかりやらなきゃと思っています。

渡邉 僕らは研究者から見たら遅れているんです。高校生の間に、僕らのように科学オリンピックには取り組まずに、大学の数学や物理をやる人もいる。数オリと大学数学は全然範囲が違うから。そういう人に比べると僕らは遅れているから、これから頑張らないとね。後悔することは全然ないけど。

――髙谷君は数学の研究者になりたい?

髙谷 そうですね。純粋数学をするのが小さいころからのあこがれでした。

――いつから数学に興味を持ったのですか?

髙谷 小学5、6年生のころにはもう、数学の研究者になりたいと思っていました。実際に何をするかをよくわかっていたわけではないけど…どうしてかなぁ。当時から数学史みたいな本も読んでいた覚えがあります。

渡邉 面白いよね。

髙谷 テレビでも数学者に関する「未解決予想」の番組なんかもあって、面白いなと思って見ていました。

――数学者? フェルマーの最終定理などですか?

髙谷 いや、そのころはフェルマーじゃなくって……。えっと……。ポアンカレだ。

渡邉 あぁ、僕も、それ見たよ。

むしろ数学が分からなくなった

――数学オリンピックに連続して出場してきたことで、数学をよりわかるようになったという感じがしていますか?

髙谷 いえ、むしろ分からなくなったと言った方がいいかもしれないですね。数学オリンピックの問題はパズルみたいなところがあって、大学数学というよりは、研究しているときの心理状態に近い。自分にとって解法が全く分からない状態で問題があって…分からない問題を解くステップが一番重要じゃないですか。実際「予想」を解くのも、何も分からない状態ですし。

数学オリンピックをやって、最終的に(解法を誰も分からない)問題を解くことに必要な思考能力は養えたと思うのですが、実際の(大学以降の)数学でやっていることは違う。全く役に立たないとまでは言わないまでも、ほとんど関係ないことをやっていた。思考する過程を楽しめたことは、数学をする感覚が分かったと言ってもいいかな。

――何かのために役立つものではないということですね?

渡邉 「趣味」だよね。

髙谷 数学オリンピックの課題は、物理や化学のオリンピックと違って大学での研究につながらないので、そういうことをわかった上で挑戦し続けるためのモチベーションを保つのは難しいのかもしれませんね。自分がいかに数学を好きで、数学そのものを楽しめるかということに尽きると思います。僕の場合は数学オリンピックに参加し続けることで、自分がどこまでできるか、自分の立ち位置はどれくらいなのかを確認できました。

渡邉 僕が数学オリンピックに真剣に取り組めなくなったのは、「大学数学にもつながらないし、これを続けていても仕方がないなぁ」と思ったから。数オリから物理に転向した中2か中3が僕の転機です。でも、数オリは高校生のうちしかできないもの。髙谷君を見ていると、その点は僕の青春のやり残しのような気もします。僕は物理の面白さは数学が応用できるところにあると思っていて、数学が好きという気持ちは髙谷君と同じ。数オリをもう少し一生懸命続けてもよかったかなと、少し後悔してもいます。

――渡邉君にとっての物理は?

渡邉 (大学以降に役立つかは)物理については「半分イエス」です。物理オリンピックと大学物理も別っちゃ別ですが、物理オリンピックをやるにはそもそも(高校の)物理を勉強しないといけない。その意味で半分共通しており、そこまで離れていない。物理オリンピックは、大学物理につながっているんです。だからその辺は納得して取り組めました。物理オリンピックのビハインドには最先端の物理がある。大学物理と直結する部分なので、楽しんで、というか納得してやれました。言葉にするのは難しいですが。

物理オリンピックは、実験も楽しめました。問題が面白く、実験器具もいじりがいがある。ちゃんと解けたときの喜びがある。(問題を解く)5時間は、実験物理学者になれる。最後の値を出すまで…本当に楽しいですね。物理オリンピックについては、高校3年間、やり切ってできたかなと思っています。