国際物理オリンピックで、総合成績と実験試験で世界一に輝いた渡邉明大君(7月24日、文部科学省)

7月17日から23日までインドネシアで開催された第48回国際物理オリンピック(IPhO2017)で、渡邉明大君(わたなべ・あきひろ、奈良・東大寺学園高校3年)が理論・実験の試験を合わせた総合成績で1位に輝いた。日本代表として初の快挙だ。渡邉君たち代表5人は金メダル2個と銀メダル3個を獲得した。5人は24日、文部科学省を訪れて大会結果を報告。その後、取材に応じた。

86カ国・地域、395人の頂点に

大会は、各国から選抜された高校生らに物理への興味と能力を高めてもらい、国際交流を図るのが目的で、毎年開催される。20歳未満で大学教育などを受けていない生徒が対象で、参加は各国5人まで。今回は世界86カ国・地域から395人が参加した。参加者は、理論試験(3問)、実験試験(2問)に各5時間をかけて挑む。メダルは、金が上位約8%に、銀が約17%に、銅が約25%に与えられるが年により変動し、今回は金が64人に、銀が72人に、銅が102人に授与された。日本は2006年から参加している。

高校1年次から毎年日本代表に選ばれている渡邉君は、3年連続金メダルを受賞。さらに今年は、理論と実験を合わせた総合成績が世界1位の選手に贈られる「Absolute Winner(絶対勝者)」と、実験試験の1位に贈られる特別賞に輝いた。いずれも日本選手として初の快挙だ。

物理オリンピック日本委員会によると、今年の理論試験のテーマは「ダークマター」「地震と津波と火山」「宇宙膨張」。実験試験のテーマは「レーザーを使った食塩水の拡散係数の測定」「グラファイト(黒鉛)の磁気浮上を利用した地震計・傾斜計の設計」。実験試験は質・量ともに例年以上の難問。渡邉君は、実験試験中に器具のレーザーが2度壊れるトラブルに見舞われたが乗り切り、世界一の成績を達成した。

文部科学省の戸谷一夫事務次官に国際物理オリンピックで世界一位になったことを説明する渡邉明大君(7月24日、文部科学省)

「現象を数式で再現」物理の魅力

高校1年生の時は「だめでもともと」という思いで臨み、金メダルを獲得した渡邉君。当時の取材には「せっかく物理を勉強していたので、腕試しとして予選に挑戦しました。代表に選ばれてからは学校の勉強との両立が大変で、1週間に1度は辞めたいと思っていました(笑)」と話していた。一方、「金メダルをとろう」と思って臨んだ2年生の時は大会期間中に満足に眠れないほど緊張したという。そのため今回は、「(大会期間前は)Absolute Winnerをとれるように頑張って勉強しましたが、大会中は(順位やメダルのことは)何も考えずに、できることを全部やる精神で乗り切った」と振り返る。代表の生徒は、物理オリンピック日本委員会の合宿研修に参加したり、自分で問題集や大学レベルの物理に取り組んだりして準備するという。

物理の魅力を「目に見える現象を数式で追いかけ、再現するところ」と話す。「数式は紙の上(の研究)ですが、物理は『現実との照合』という関門、チェックがあるから、それが面白い」

日本代表を3年経験して「大きな大会の場数を踏んで、精神的に強くなった」と振り返る。「代表になったのは5人ですが、代表候補の合宿で一緒になった人など、友達、先輩、後輩とのなかなかない関係が得られた。大切にしていきたい」

将来は、数学か、高度な数学を使う理論物理を専門にし、「がちがちの理論系を研究したい」と意気込む。

日本代表は金2銀3、22年は日本で開催

今大会では、渡邉君と昨年銀メダルの吉見光祐君(兵庫・灘高校2年)の2人が金メダルを獲得。初めて日本代表に選ばれた氏野道統君(大阪星光学院高校2年)、小宮山智浩君(埼玉県立大宮高校3年)、中江優介君(大阪府立北野高校3年)の3人が銀メダルを獲得。7年連続で代表全員がメダルを授与された。

日本代表は、昨年の国内大会「全国物理コンテスト『物理チャレンジ』」(参加申込者1851人)の成績優秀者から候補が選ばれ、研修合宿と最終試験を経て決定した。22年の第53回国際物理オリンピックは日本で開催される。(西健太郎)

文部科学省の戸谷一夫事務次官(前列中央)に国際物理オリンピックの結果を報告した日本代表の5人。前列左端が吉見光祐君、右端が渡邉明大君。後列左から小宮山智浩君、氏野道統君、中江優介君(7月24日、文部科学省)