イラクのアバディ首相は7月10日、過激派組織「イスラム国」(IS)が占拠していた同国北部モスルを奪還、3年に及んだ戦闘に勝利し「虚構の国は崩壊した」と宣言した。重要拠点を失ったISの弱体化は決定的で、国際社会が最優先課題とするIS掃討作戦の大きな節目となった。

「人間の盾」住民犠牲に

Q モスルはどんな都市?

モスルはイラク第2の都市で、IS最高指導者のバグダディ容疑者が2014年7月に初めて公の場に姿を現した礼拝所ヌーリ・モスクがあり、ISの象徴的な場所だった。

Q なぜISは弱体化?

15年にはイラクとシリアに2万~3万いるとされたISの戦闘員は、イラクと米軍などの有志連合との戦闘などで昨年末には1万2千~1万5千人に減少し、支配領域からの「税収」も大幅に落ち込んでいたとされる。

イラク政府は16年10月、モスル奪還作戦を開始、米軍が特殊部隊派遣と空爆で支援した。奪還作戦では、ISの「人間の盾」にされるなどして市民4万人以上が死亡したとの分析もある。今後は、ISが「首都」とするシリア北部ラッカ奪還が焦点となる。

 

 

 

東南アジアでも活発化

Q これでISは壊滅か?

ISの求心力、組織力の低下は必至だ。だが、イラク西部などには、まだ数千人の勢力が残っている。また「イスラムの敵を殺せば殉教者となり天国に行ける」と信じる海外居住の信奉者もおり、フィリピンなど東南アジアでも活動を活発化させている。IS壊滅には長い時間がかかるだろう。

Q モスルの人はどうなる?

モスルは長期にわたる戦闘で住宅や電力など生活基盤が深刻な損害を受けており、推定人口170万の半数以上が家を追われた。生活再建が急務だが、国連は緊急案件だけで10億ドル(約1140億円)以上が必要と見積もっている。スンニ派とシーア派の宗派対立、広がる格差、脆弱(ぜいじゃく)な統治など根本的な問題は残ったままだ。国民の不満が鬱積(うっせき)すれば、新たな過激派がつけ込む懸念は消えない。

 

【MEMO】イスラム国(IS) 国際テロ組織アルカイダ系のイスラム教スンニ派武装勢力を源流とする過激派組織。中東民主化運動「アラブの春」がシリアに波及し、反政府デモが本格化、内戦状態に陥り混乱が広がる中で台頭した。モスルを制圧した14年6月には、シリアとイラクにまたがる政教一致国家の樹立を宣言、欧州などで無差別テロを繰り返した。