高校男子バレーの雄として、数々の栄光を誇る東亜学園(東京)。鮮やかな赤のユニホームと、オシャレな髪形のイマドキの選手たち。見た目は華やかだが、日々の練習は基本プレーを徹底重視。派手さはみじんもない。 (文・田中夕子、写真・幡原裕治)

選手各自がウオーミングアップを終えると、全体練習はパスから始まる。2人一組でのオーバーパス。ところが、始まってわずか5分もたたないうちに、佐藤俊博コーチ(32)は選手を集め、短くげきを飛ばす。

 

「練習試合でドリブルが多かったよな? ちゃんと意識して練習しているか?」 選手たちは元の位置に戻り、今度はパス時の指の形を確認しながら、丁寧にボールを扱う。何げなくパスをするのではなく、より正確な技術を身に付けるための練習になっているかを、各自が確認する。「この作業こそが最も大切だ」と佐藤コーチは言う。

「練習の必要性を理解しなければ、試合でいいプレーを生みだすことはできません」 選手たちは「なぜ、この練習が必要か」を納得した上で、技術の細部まで意識しながら練習を進める。

全日本ジュニア候補にも選出されている大竹壱成主将(3年)=神奈川・サレジオ中出身=は「的確に、詳しく指導してもらえる。1年生で体づくりをして、それからスパイクやブロックの基本を細かく丁寧に教えてもらった。そのおかげでスパイクの動きも速くなった」と実感している。

約30分にわたるパス練習を終えた後は、レシーブ練習を80分かけてみっちり行う。その後もブロック、スパイク、コンビネーションの練習が続く。

こうして約3時間に及ぶ基本練習を終えると、最後は実戦形式のゲーム練習を行う。体育館を出るのが午後8時になるのも珍しくないという。黒崎耕陽(3年)=東京・渕江中出身=は「どれだけ丁寧にプレーできるかが勝負を分ける。勝つために必要なので、単調に思える基本練習も苦になりません」と話す。

1983 年の春高初優勝以後、東亜学園は強豪校として全国にその名をとどろかせることになった。しかし、2001 年に馬橋洋治前監督が亡くなった後は、「選手が集まらず、東京で勝つことすらできませんでした」と小磯監督は話す。

チームには経験豊富な選手が少なかった。それでも試行錯誤を繰り返し、「勝ちたい」と闘志を燃やす選手たち。小磯監督は「とにかく基本にこだわろう」と選手に伝えた。「試合でベストを出すためには、練習からどれだけ意識して基本プレーができるかが重要。漠然とパスを返すのではなく、どこに返すか。1本1本意識しながら練習しました」

05 年ごろからチームは少しずつ変革を遂げ、再び全国大会へ出場できるように。中学で全国優勝を果たした選手も集まり始め、07 年、08 年には「春高」を制した。

「中学で全国優勝を経験していようが、高校に入れば関係ない。どれだけ基本練習をしてきたか。泥くさい練習に勝るものはありません」 基本を侮る者は、勝者になれず。小磯監督の揺るがぬポリシーは、これからも「最強軍団」の新たな歴史を築く礎になる。