今なお、海外においては「日本の製品はすばらしい!」と評価されることが多く、日本の研究者・技術者は世界をリードする存在として期待されている。科学技術について学ぶことができる理学・工学系の学部の特色を、大学問題アナリストの野澤和範さんに聞いた。
(聞き手・構成 安永美穂)
学部によって大きく違う学びの分野。学びたいことを明確に!
「理学」と「工学」の違いを一言でいうと、理学は真理を明らかにする学問で、工学は理学の原理・法則を応用した「モノづくり」の学問ということになる。モノの原理を「なぜ?」と深く考察することが好きな人は理学部、モノを作ることが好きな人は工学部が向いていると言えるだろう。理学部と工学部の学科を併せて「理工学部」としている大学もある。
理学部は、主に数学・物理・化学・生物・地学などの学科において、高校の科目をベースに高度な研究を行う。大学院に進学する人が多く、研究者や教員を目指す人が多いのが特徴だ。 工学部の主な学科としては、自動車やロボットなどの勉強をする「機械工学系」、モーターから家電まで幅広い分野を学ぶ「電気電子工学系」、スマホなどの通信技術を開発する「電子通信工学系」、建物の設計や作り方を学ぶ「建築系」、社会の基盤となる大きな建造物(道路、ダム、鉄道など)をつくる「土木(都市基盤、建設)系」、石油製品やゴム、ガラスなどの製品をつくる「応用化学系」、企業経営をコンピュータベースで管理するシステムを開発する「経営工学系」などがある。最近では、コンピュータの研究開発を行う「情報工学系」の学部が増えてきた。医療や福祉の現場で役立つ機器をつくる「医療工学系」「福祉工学系」、生命の科学を暮らしに役立てる「生命工学系」のように、複数の領域を組み合わせて学べる学科も増えており、モノづくりを通じてさまざまな分野に貢献できる道が開かれている。
日本の技術を世界に!グローバル社会に対応できる人材育成
また、大学によっては、学科やコース単位でJABEE(日本技術者教育認定機構)の認定を受けていることがある。これは、国際的に通用する技術者を育てるプログラムを認定するものなので、大学のホームページなどで該当する学科・コースがあるかを調べてみるのもよいだろう。モノづくりは「やってみせればわかる」という部分もあるので、英語に苦手意識を持つ人でも、グローバルな仕事ができるチャンスは大いにある。
理学・工学系の大学院への進学率は約4割で、大学院の修士課程修了を採用の条件としている大企業などへの就職を希望する人が多い大学では、約8割に上ることもある。新しい技術や製品が次々と生み出される世の中において、モノを開発できる力を持っている人は常に必要とされることもあり、理系の就職率は96.4%と高い。何かを知りたいという強い好奇心がある人、モノづくりが好きな人は、理学・工学系への進学を考えてみるとよいだろう。
のざわ・かずのり 1943年、東京生まれ。武蔵工業大学(現・東京都市大学)で入試広報を担当し、事務長として新学部開設に携わる。2009年退職後は、大学選びについて高校生・保護者への講演・執筆などを行っている。
◆〈SSH生徒研究発表会〉ユニークな研究、堂々発表◆
科学技術や理数系の教育を重点的に行うスーパーサイエンスハイスクール(SSH)。今年度は全国の204校が文部科学省から指定されている。この夏には、全国の生徒が集う生徒研究発表会が開かれた。
8月6、7日、会場のパシフィコ横浜(神奈川県)では、広大な展示ホールに、全国のSSHと、海外から招いた23校がブースを出し、生徒たちは他校の研究を熱心に見て回った。
バナナ電池を研究
大阪・三国丘高校は、高瀬みことさん、新田大知君、野中陽太君の3年生3人が展示発表をした。研究テーマは、バナナに銅と亜鉛を刺して回路を作った「バナ ナ電池」。「物理、化学、生物に共通する研究をしたい」(高瀬さん)と考え、「果物電池」をテーマに決め、比較的安く調達できるバナナを使った。
まず、バナナの内部抵抗が、部位によって、また接続方法(並列と直列)によってどう変わるかなど物理的な視点の実験を実施。次に、冷蔵庫、恒温室のそれぞれで、内部抵抗や糖度などの時間的変化を調べた。
実験や発表を重ね、「なんでも疑問に思うようになりました」(高瀬さん)と振り返る。
七面体は何種類ある?
愛知・名古屋大学教育学部附属中学高校は、数学クラブが「七面体」について発表した。凸七面体の面の組み合わせが何種類存在するかを調べたものだ。まず、 頂点と辺の数の組み合わせから、作成できる可能性のある立体の数を導き出し、その後、作成できない立体について、一つずつ証明していった。
クラブは中高合わせて8人。河合亮君(1年)は、「本当に数学が好きな人が集まっている。自分でテーマを探すのが面白い」と魅力を語る。他の部活と掛け持ちするメンバーも多いから、数学クラブは朝、始業前に集まり、互いのアイデアを交換しているという。
◆【マナビ最前線】理学・工学トリビア◆
ウナギやエイの電気で治療!?
体内で電気を発生させて相手をしびれさせる「電気魚」のうち、デンキウナギは約500~850V、シビレエイは約70~80Vの直流電圧を発生させると言 われている。これらの電気魚は病気による体の痛みを和らげるために利用されていたと言われており、古代ローマのポンペイの遺跡では、薬を売る店の看板にシ ビレエイが描かれているという説もある。電気の働きがまだ解明されていなかった昔から、人々は電気を病気の治療に使っていたようだ。
※参考資料:藤瀧和弘著「図解入門 よくわかる電気の基本としくみ」(秀和システム)
手術をするロボットがあるってホント!?
手術支援ロボット「ダヴィンチ」は、医師の手ブレを補正する機能などを持つ画期的なロボット。医師がこのロボットを操作することで、より緻密な手術ができ るようになり、日本でも既に150台以上が導入されている。現時点では、人による操作を必要とせずに自分で手術ができるロボットは実用化されていないが、 人の体内に入り込めるナノロボットの研究開発も進められており、いずれは「ロボットが病気を治す時代」が来るかもしれない。
(安永美穂)